和桜

独裁者と小さな孫の和桜のレビュー・感想・評価

独裁者と小さな孫(2014年製作の映画)
4.6
行き着く先は復讐か赦しか。
ある独裁国家でクーデターが起こり、孫を連れたまま逃げ延びた独裁者は身分を偽りながらの逃亡生活を始める。

序盤は多少コメディチックですが、それ以降は一転。
逃亡劇を経て、自分がどれだけの人間に憎まれているかを知り、自分のせいで狂わされた人生や革命側の所業を見ることで、自分が何をしてきたかを自覚する。
しかし、この独裁者のお爺さん。
安易に自分は間違っていたとはほとんど言いません。
どこかを睨み付けるような、放心するような、怯え諦めるような、孫を労るような、言葉よりも様々な目で訴えかけてきます。

反省は確実にしているんだけど、正直どこまで悔いてるのかがわからない。
だから、「後悔してるから」と同情することも難しいし、独裁者の所業が間接的にしか語られないため猛烈な怒りが湧いてくることもあまりない。
後悔しているのかと思えば、あっけらかんとしたことを言ったりと、見ている側としては非常に複雑な感情を抱かされる。
まさに、おまえ達(鑑賞者)は何もわかっていないんだ、第三者ですらまだ遠いという疎外感のようなものを。
そして、戦争映画においては特定の人物への感情移入は時に危険なものだとも気づかされます。


復讐の連鎖を終わらせるにはどうすればいいのか。というのが本作の一つのテーマ。
これは現実の切実な問題として、真実和解委員会など様々な試みが行われているものの未だ明確な答えはありません。
そんな答えのない問題へ、この映画は叫びにも似た言葉で訴えかけます。
命令されたとはいえ手を下したのはお前たちだろうが!という兵士への問いかけ。
何もしない助けないことを恥じろ!という市民への言葉。
これらはあまりに強すぎる言葉ではあるが、復讐を叫び罪を償えというのなら、犠牲者にとっては程度の差はあれど皆がその対象にもなり得るというメッセージだったのかもしれない。
そして、安全な立場になった途端に暴徒化する人々への怒りにも。
自らが傷をおわせた者を自ら重荷として背負う描写も印象的でした。

どうせラストはすべてを反省したあげくに、孫を庇って死ぬのかなと薄い考えでみはじめてしまった自分が恥ずかしい。
あの答えや終わり方は賛否両論あると思いますが、自分はこの作品においてこれ以上ないものだったと思います。
フィクションにもかかわらず、実話かと思わせるほど訴えかけてくるものがあったのは監督の技巧か役者の演技力か、とにかく素晴らしかったとしか言えない。


最後に、この物語のもう一人の主人公である孫くんがひたすらかわいいという点も。
どんよりとした雰囲気の中でも、ひたすら無邪気でひたすら光。
何が起こっているかよく分からないながらも疑問に思ったことを口にし、それは時に見ている側の言葉でもある代弁者のような存在。
ラストの言葉も、そうだよなそうだよなと同調しかできなかった。
和桜

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