わこつ

独裁者と小さな孫のわこつのレビュー・感想・評価

独裁者と小さな孫(2014年製作の映画)
4.7
軍事クーデターにより一夜にして失墜し追われる身となった暴虐な独裁者の男が、後継者である小さな孫を抱えて国外逃亡のため国境を目指すが、道行く先でその目に飛び込んでくるのは自らが元凶となって引き起こされた様々な悲劇の数々。
目も当てられないようなその多くの悲劇に男は嫌でも目を向けざるをえず、自身の罪や責任をまるでピストルのように胸に突きつけられていく。

男に手を引かれて共に旅をする小さな孫は純粋無垢そのもので、残酷さを引き立てるが同時に観客の癒やしにもなってくれる。
この小さな孫は産まれたらたまたま祖父が独裁者だったというだけで何の罪もないけど、家族も財産も何もかも独裁者に奪われた市民からすればそんなのはどうでもよく、祖父と共に容赦なくヘイトをぶつけられる事となるが…決して胸糞エンドではないとだけ言っておきたい。

作品のテーマは「憎しみの連鎖」と「風見鶏的な国民の性格への警鐘」であり、劇中で起こる悲劇もただの悲劇ではなくて、実はこのテーマがしっかり織り交ぜられているような気がした。
物語の舞台は架空の国だけどその中で起こっている出来事は物凄く現実的な出来事であり決してフィクションではない。
果たして自分の信じる正義の為に自分の命を差し出せる人はこの世にどれくらい居るんだろうか。

監督自身が若かりし頃は革命運動に明け暮れて海外亡命後にもつい数年前まで祖国の政府から何度も暗殺者を送り込まれていた事を思うと劇中のセリフの一つ一つにはどこか説得力がある。
余談だけど昔タリバンがアフガニスタンの仏像を爆破した時に「仏像は恥辱のあまり崩れ落ちたのだ」という有名な言葉を語ったのはこの監督らしいです。

色々考えさせられる良作の社会派ロードムービーでした。
孫がかわいい。
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