広島カップ

サーカスの広島カップのレビュー・感想・評価

サーカス(1928年製作の映画)
5.0
♪虹を見たいならうつ向いてはいけないよ……

1928年に製作された本作はチャップリン自身が歌う曲で始まります。
同年、チャップリンの母親ハンナが死去しています。
本作の全米公開が1月で亡くなったのが8月、この曲をハンナに捧げたものかどうかは判りませんがそうとも取れる内容の曲です。

チャップリンがユナイテッド・アーチストに移って作られた本作は『黄金狂時代』(1925)と『街の灯』(1931
)に挟まれて発表されました。
その後の『モダン・タイムス』(1936)『独裁者』(1940)などメッセージ性が強くなる前の作品で勿論サイレント作品です。

サーカスという題材自体が喜劇役者としての必然的な選択。
目で観て楽しいしハラハラする。
音楽はあるがセリフは無い世界で正にサイレント映画に近似の題材。
そこで水を得た魚のように身体を張った芸を爆発させるチャップリン。
ジョン・レノンがメッセージ性無しで純粋にロックンロールするためにオールディーズを集めた「ロックンロール」(1975)というアルバムを出したようなもの。

しかしチャップリンの永遠のテーマである愛はもちろん忘れてはいません。
サーカスのクラウンのように哀愁を帯びた悲恋。
『モダン・タイムス』のように画面の向こうに消えて行く最後のチャップリンですが希望のあるものではなく「さくら、幸せに暮らすんだぞ」と柴又の駅に向かうがごときラストでした。

メッセージ性が薄いと書きましたが、警官から追いかけられて偶然サーカスの本番の舞台に登場してしまったチャップリンが可笑しくて大笑いをする観客という場面があります。
逃げながらも権力をおちょくっているチャップリン。
権力に噛みつくスタイルは自然といつものように出て来てしまいまっています。

ちっとも難しくなく目で観て誰でも解る笑い。
サイレント映画の傑作です。

※900回記念
広島カップ

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