keith中村

名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件 史上最悪の2日間のkeith中村のレビュー・感想・評価

5.0
 「名探偵コナン」は劇場版は全作観てるんだけれど、アニメはあんまり見てないし、TVスペシャルは一本も見たことがなかった。
 たまたま配信で発見したので観始めたら、これが映画ファンとしての拾い物だった。
 
 序盤、銭湯でコナンくんがすっ転ぶところが、「鍵泥棒のメソッド」そのまんまだったので、「なんだこれは?」と思っていると、「殺し屋コンドウ」が出てくるじゃないですか。
 「あ~! これって、コナンであるとともに『鍵泥棒のメソッド』の続篇じゃん!」と、テンションが一気にあがりました。
 「ってことは脚本はまさか内田けんじ本人か?」
 そう思って観てると、ストーリーのかき混ぜ方とほぐし方がいつもの「内田節」なので、楽しい楽しい。
 今、日本ではこの人くらいじゃないですか? クレジット見なくても作風だけで作者がわかるのって。
 
 コナンは、本作のしばらく前にルパン三世と2回コラボしてるじゃないですか。
 ってことは、コナンとルパンと鍵泥棒は、同じ「コナンヴァース」に存在しているってことで、そこも嬉しくってニコニコできちゃう。
 さらにそこには怪盗キッドもいるわけですわ。まあ、そもそも作品間リンクとしては、コナン×キッドが最初にありきで、これは「青山ヴァース」なので、複数シリーズを持つ漫画家や小説家が結構やりたくなるし、やっちゃうやつではあるんだけれど。
 
 私が「ユニヴァースもの」(まあ、こういう言い方はMCU登場以前にはなかったわけだが)で最初に昂奮したのは、小学生の頃の「松本零士ヴァース」。ヤマトとハーロックとエメラルダスが同じ世界を共有してるって設定にめちゃくちゃアガありました。
 「アガる」って言葉もまだなかったけどね。
 それとほぼ同時期なのが1979年の24時間テレビ「マリンエクスプレス」。ただ、その後、手塚作品を追い続けるうちに、「手塚はユニヴァースじゃなくスターシステムなんだ」って理解しました。ユニヴァースはおろかスターシステムって言葉も当時は知らなかったけどさ(いろいろ書いた用語の中で、これがいちばん古いし、そもそもが映画用語でもあるんだけれど)。でも、手塚のスターシステム的なメタ構造は、子供でも理解できたんだよ。
 
 映画史的にかなり古いコラボは、「錨を上げて(1945)」でのジーン・ケリーとネズミのジェリーくんのダンスかな?
 "Look at me. I'm dancing!"ね。
 あのジェリーくんはトムくんと「仲良く喧嘩」してるいつものキャラじゃなく、王子様って設定だったので、MGMのスターシステムってことですね。
 トムジェリは、その後、エスター・ウィリアムズの水中ミュージカルでも共演してましたね。
 あとは、そこから随分時代は後になるけど「ロジャー・ラビット」とか「ラスト・アクション・ヒーロー」か。
 
 例によって、話が逸れた。
 ともかく、コナンを観たつもりが、「鍵泥棒のメソッド」の続篇だったってのが拾い物なわけです。
 「ユニヴァースもの」って、基本的にはシリーズもの同士の融合じゃないですか。
 それが単発の映画とのコラボってのがかなり珍しい。
 しかもアニメと実写。アニメと実写って、普通は「錨を上げて」とか「ロジャー・ラビット」みたいに合成するんですよ。それが、本作ではアニメに寄せてる。
 さらには、それぞれのメインターゲットとなる客層はおそらく全然違う。
 まさに「誰得?」って企画なわけですよ。
 いや、だからこそ、「誰得?」「あ、はい。俺得!」ってなって、超楽しいんですわ。
 
 「鍵泥棒」で堺雅人だった桜井さんまで登場するし、この人のアパートとか、コンドウさんのクライスラーとか、きっちり本篇どおりだし。
 それに、もしやと思ってたけど、エンドクレジット確認すると、やっぱりコンドウさん役が香川照之だし、香苗さんはヒロスエだし、最高です。
 桜井は堺雅人じゃなかったけどね。まあ、役が小さいからオファーしにくかったんだろうけど、声優の岩永哲哉さんがかなり堺雅人に寄せて演じてくれてました。
 
 あと、本作で面白かったのが、「鍵泥棒」本篇より、こっちのがシリアス度が高かったところ。
 リアリティ・ラインは本作の方が現実から乖離してるんですよ。ハイテク・アイテムとか、いつものコナンだし。
 ただ、「鍵泥棒チーム」の置かれた状況のシリアスさは、オリジナルよりこっちのほうが切実。
 そういうところも不思議なんだけれど、やっぱ本作を形容するには「意外な掘り出し物」しかないかな。
 ある意味、内田けんじ作品でもっともシリアス、言い換えれば「命の危険のある映画」なのがなんとコナン作品ってのが、いや~、映画ってほんとに不思議だし楽しいなあ。
 
 寡作な作家だし、というか、こんな厳しい作劇上の掟を自分に課しちゃった以上、どうやっても量産は不可能な作家性を持った人なんで、内田作品を渇望してて見逃してた人には、「これもそうなんだよ!」と最高におススメの一本です!