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ザ・トライブのmanacのレビュー・感想・評価

ザ・トライブ(2014年製作の映画)
2.0
前代未聞の異色作みたいな触れ込みだったので、全編音声字幕なしということは知っていたが重い腰を上げて挑戦。

極々ありふれた、どっかで見たことあるような堕落していく人の物語でした。
それを奇をてらって全編手話で撮っただけ。

この映画の言語は手話である。
字幕も吹替も存在しない。
「愛」と「憎しみ」ゆえに、
あなたは言葉を必要としない。

このキャッチコピーを見た時に気づくべきだった。
手話にも国境はある。日本語の手話、英語の手話、手話を意思伝達手段としているろう者とて生まれ育った環境が違えば通じない。
それを「手話」と一括りにしている。
「ウクライナ語だろうが英語だろうが観客は全員登場人物の言葉は通じない」が大前提。
観客に「セリフなしの映像だけで訴えかける」がメインテーマなのでしょう。
要するに、中国語の分からない人に中国語の映画を字幕なしで見せるのと効果は同じなのでは?
ろう者にとって手話は言葉でしょ?
ただの字幕がない映画でした。

ろう者と健常者の分断も訴えかけているように思えた。
セリフや音楽はないものの、足音等の生活音は聞こえる。
殆どのショットが引きの長回しで、観客は徹底して傍観者の立場にいる。
また、食事やテレビを見るなど行為が一切ない。
ひたすら犯罪シーンが続いていく。
唯一あったのがPCの写真を見ながら酒を酌み交わすところだが、何を言っているのかさっぱり分からない、当然。
オマケにやっていることは暴力と窃盗と性交。
ポン引きやってる男子生徒が深夜に校外で車に轢かれて亡くなっているはずなのに、なんの騒動もなし。全寮制の学校なら夜中に無断外出していることだけでもバレたら大問題になりそうなのに、校長先生からのお言葉もなければ親も出てこない、葬儀をやった気配もなし。あり得るの?大丈夫?ウクライナ。
ろう者といより、発展途上国の貧困家庭に生まれ教育も受けられず就職もできず悪の道に染まっていく子供たちの方がしっくりくる。
登場人物の世界観を疑似体験できず、共感できる要素がない。第四の壁が厚すぎる。
これがろう者のリアルなのであれば(そんなはずはないと思うけど)、健常者と相まみえることはないであろう。
健常者とろう者は決して交わることのない別世界の人間同士であることを訴えたかったのか。
リアリティとは、この分断のこと?

全編が手話、言葉が分からない(字幕がないだけ)ゆえに必死に凝視してしまう映像等、異色作であることは認める。
役者の体当たり演技も凄かった。
挑戦的な試みで話題性も十分だと思う。
ただし、特定のマイノリティだけで作られた映画はハリウッド映画なのに出演者全員アジア人の『クレイジー・リッチ!』観たし。
実際のろう者が出演してる全編手話の映画は『クワイエット・プレイス』観たし。
全編「へーーーーい」しか言わないセリフのない映画は『レッド・タートル』観たし。

ウクライナのトイレが扉無しの和式で、トイレットペーパーの設置がなく、女性でも排尿後は拭かずにパンツを上げてしまう事が分かったのは、個人的に物凄い収穫でした。衝撃作!
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