ちろる

はじまりへの旅のちろるのレビュー・感想・評価

はじまりへの旅(2016年製作の映画)
4.1
文明から切り離された森の中で生活する奇妙な家族が「下界」に降り立って、その生活や文化のギャップをユーモラスに描くコメディだと思ってましたが意外なほどシリアスで考えさせられる作品。

猟をして鹿を食べたり、夜は焚き火の明かりで哲学書を読みながらお互いの思想を語り合うような生活は魅力的だし、海辺で、草花を頭に飾ってヒッピーのような姿でママの好きだった「Sweet Child O’ Mine」を歌って踊る子どもたちの姿が妖精のように美しくて、幸せそうで、この家族の一員になりたいと本気で思った。

森の生活のキャプテンでもある父親ベンは、敬愛するノーム チョムスキーの哲学を独自の解釈で時々おぃおぃ!と突っ込みたくなるような教育をするけれど、その一方では子どもたち一人一人をちゃんと個人として尊重して対等に接しているから、子どもたちもベンを心から慕って愛してるんだろうなと思う。

もちろん、親の思想によって子供たちの人生を縛ってはいけないし、どんなに仲の良い家族でも一生家族だけで過ごせるわけもないわけで、妻の死や息子の反抗期でいきなり現実に向き合うこととなって、強靭な彼の心がいきなりポキっと折れてしまった時の姿は、彼の家族への深い愛が分かってたからこそとても切なくて遣る瀬無いシーンだった。

この作品はベンたちのようなアナーキーな生活をするコミューンを批判してるわけでも、賞賛するわけでもないけれど、自分の確固とした思想を持ってしても、自分たちの作った夢のユートピアだけで人生を完結する事なんかできなくて、いつか現実社会のコミュニティとの間にそれなりに折り合いをつけて生きていかなきゃいけないんだということを考えさせてくれる。

一筋縄ではいかないベンたち家族は、再出発してまた、はじまるこれからの日々もきっと色々大変な難問が待ち構えているけれど、ベンの子どもたちへの愛と、子どもたちのベンに対する敬愛が満ちていた、羨ましい家族のカタチを見せつけられたのできっと大丈夫。
最後はなんだかとても幸せな気分で劇場を後にした。
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