小一郎

小一郎の感想・レビュー

2017/05/20
はじまりへの旅(2016年製作の映画)
4.1
じわじわとくる映画。全米公開当初4館からスタート後、約600館に拡大し、公開期間も4カ月のロングラン。各国映画祭で上映、受賞、そしてアカデミー賞主演男優賞ノミネート。日本で言えば『湯を沸かすほどの熱い愛』とか『この世界の片隅に』みたいな感じかしら。

現代社会から切り離されたアメリカ北西部の森。父親ベン・キャッシュは6人の子どもたちを学校に行かせず、独自の教育方針に基づいて教育。子どもたちはアスリート並みの体力、6カ国語を操り、18歳の長男は米名門大学に合格する知力を持つ。

ある日、入院中の母レスリーが亡くなる。社会性のない子育てに反対する母の父親から葬儀への出席を拒否されるベンだったが、子どもたちの後押しもあり一家は葬儀に出席し、母の遺言を実行するため、2400キロ離れたニューメキシコを目指して旅に出る。

生まれて初めて現代社会を経験する子供たち。なんか自分達って他の人と違うくね?と戸惑い、悩む子どもたちに厳格な父も…。

町で暮らすよりも強く、賢く育った子どもたち。ベンは子どもたちのどんな質問にも誤魔化さず、正確に答える。その一方で子どもたちへの質問には、曖昧な答えを許さず、相手が正確に理解できるように話をさせる。これって、できるサラリーマン同士のコミュニケーションですよ。

高い能力を持つ子どもに育てあげたベンの教育方針を、親戚は学校に行っていないから、つまり普通じゃないから、他の人と同じじゃないからと認めない。一方で個を尊重し、自分らしさを守ることを良しと教え込まれてきた子どもたちにも、他の人と同じじゃないことへの戸惑いが出てくる。特に恋愛したい年ごろの長男、以前、母親の気持ちを漏れ聞いた次男は父と対立する。

鉄壁に見えたベンも自分がすべて正しいと思っているわけではないらしく、子どもたちの反発に気持ちがグラつく。そして今さら感のある出来事で、完全に自信を喪失する。

ここまでやっていてそうなの?と、特にその出来事はとっくに経験済みじゃなかったの? とは思うけれど、迷い、悩まなかったら完全にイッちゃってる人で、やってることも教育と呼べる範囲の限界を超え、洗脳になってしまう。

そしてそんなベンを見て子どもたちは…。

という感じで、せっかくのファンタジー的なキャラ設定の子どもたちがその能力を生かし活躍するような痛快な場面はなく、少し笑えるくらいな感じだから、あまり面白くない。でもよーく考えると、幸せとは何かについて感じることのできる物語なのだろうと思う。

この極端な家族によって、幸せの基盤は家族なのだということが浮き彫りになる気がする。子どもにとっても親にとっても自分の存在を肯定できる居場所が家族。その居場所さえしっかりしていれば、社会からはみ出していようとも、こんなにも幸せなんだ、と観ていて思う。

そして、家族の幸せのカギを握るのは親であると。子どもにとって絶対的な存在である親は、ちっとも絶対的ではない。自分は家族の幸せのために頑張っているのに…、家族が自分に理解を示してくれさえすれば…、と悩み、葛藤し、不機嫌になる。

家族が自分の足を引っ張っているかのような勘違い、単に自分が思い通りにならないことへのいら立ち。自分が家族を不安にし、不安になった家族が自分を不安する自縄自縛。

だから、親は成長しなければならない。自分の思い通りにならないことも受け入れ、よりよいあり方を常に模索し、いつもご機嫌でいなければならない。大変だけれど、それをすることが幸せなのだ、と。

観た直後とは違い、感想を書いていたら一段としみじみしてきた。この映画、今の自分にとって、必要だったかもしれない。

●物語(3.5×50%=1.75)
・じわじわと来る良さ。子どもたちの活躍があれば良かった気がするけど。

●演技、演出(4.0×30%=1.20)
・奇抜な衣装、家族みんなの演奏は観ていて楽しい。たき火のシーンも好き。

●映像、音、音楽(3.0×20%=0.60)
・大自然の中のバスで走るシーンが良かったかな。

●お好み加点(+0.50)
・今の自分に必要な物語だった。出会えたことに感謝。