一夢

はじまりへの旅の一夢のレビュー・感想・評価

はじまりへの旅(2016年製作の映画)
4.2
コーラやTVゲームの存在を知らないが、8歳にしてドストエフスキーなどの名著、米国の権利章典を初めとする政治、思想や哲学などに通じる教育を施された、教養ある野生児達が人里離れた山から降りてくる映画という、あらすじを軽く聞いただけでワクワクして鑑賞を決めた一本。

ロッククライミングや格闘術、星の向きから自分達のいる位置を知る術、獣の捕らえ方や調理の方法を叩き込まれる息子に娘達の姿は、「あずみ」の孤児達や北斗神拳の伝承者を連想させるが、そういう設定が好きな人には間違いなくはまるはず。

彼らの父親は最愛の妻に先立たれてしまい、街で行われる妻の葬式に立ち会い、彼女の遺言を叶えるために子供達と下山する、のだが彼らと現代社会の価値観の凸凹具合がとても面白い。レストランに入り、「コーラって何!?」と聞く8歳の息子に「毒の液体だ」と答え、小説に出てくる性表現に対して「多くの場合、男性が女性に対して強引な肉体関係を結ぶことだ」と答える父親の姿を見て、これが本来のあるべき大人の姿ではないか…?と思ってしまった。子供に対しての不適切な教育や表現は、全て大人が決めたものだが、その基準は何なのだろう?と、疑問に思うことなく不適切なものとしていた人は多いのではないだろうか。

父親は彼らに、吸収したものは必ず、自分の言葉で説明することをルールとしている。その中ではinteresting=興味深い、という言葉は無意味で無価値な禁止ワードに設定されており、この辺りも目から鱗だった。資本主義、情報化、学歴社会、義務教育、中国、宗教、固定概念など、あらゆる方面に喧嘩を売ってるとも捉えられ、自分のようなタイプの捻くれ者にはオススメしたい。

こういう設定の作品は必ずどこかで
・異性に接する葛藤
・外の世界に対する思い
が爆発するのだが、本作でもしっかりと描写されていて満足。

コーラは知らないけど、ガンズは知ってるんかい!!!と突っ込みたくなる展開は帳消しにできるほど、観て良かったと思える作品だった。
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