亘

はじまりへの旅の亘のレビュー・感想・評価

はじまりへの旅(2016年製作の映画)
3.6
アメリカ西部、キャッシュ一家は資本主義社会から離れ森で暮らしていた。毎日のトレーニングと父ベンの授業の結果子供たちはサバイバルに長けつつ賢い優等生に育っていた。そんな彼らが母の葬儀へ向かう。子供たちは初めて森の外の世界を見る。

教養と体力はあるけど浮世離れしたキャッシュ一家と資本主義に染まった街の一般人(キャッシュ一家以外)の出会いを通し、資本主義社会や"普通"に疑問を投げかける。それと同時に子供の教育の仕方についての問題も取り扱っている。キャッシュ一家の生き方は一見"変"だけど、この生き方はベンの考え方があってこそ。子どもたちは初めて目にする資本主義社会で騒がしさや肥満に驚く。そして資本主義に踊らされる人々や教養のない人々を馬鹿にする。

ベンは自然の中で食材を調達したり、岩山を上ったりする術を教える。そして子供たちに読書をさせることで論理的思考を身に着けさせる。実際に長男ボウドヴァンは有名大学にすべて合格したし皆チョムスキーを理解している。ゲーマーのいとこたちに比べれば"優秀"かもしれない。

でも彼らは外界の人と接しなかったから社交性に問題がある。ボウドヴァンは初めて同年代の女性に会っても話せないし、子どもたちは妹夫婦たちと話しづらそう。こういう作品だと主人公たちの側に立って支持したくなるけど、今作の場合ベンの教育が極端でベンたちを積極的には称賛できない。なんだかんだで彼らも現代のアメリカに暮らしてるんだし、森でサバイバルで生き残れても、外では生き残れないんじゃないかな。資本主義社会に疑問を持ちつつベンたちにも疑問を持ちながら見る必要があると思う。

妹夫婦は子供たちに普通に育ってほしいから「子どもたちには環境が必要だ」と話し義父母たちも学校に通わせようとする。それでもベンは強硬に森に戻りたがり、教育について当事者の子供たちをすっ飛ばした議論が行われる。長男ボウドヴァンと次男レリアンは、"普通の学校"を望んでいるのにベンはいつも問答無用で反対。どちらが絶対的な正解ということもないからこそ、ベンはもう少し寛容になっても良いと思った。

だからこそ終盤のベンの妥協は、ベンの成長だったと思う。ひげをそって多少現代人っぽくなりボウドヴァンを旅に出す。そして愛車スティーブをやめてちょっと現代的な家に住む。森の中でワイルドに暮らしてた頃ほどの奇抜さはないけど、異文化を受け入れる寛容さを手に入れた。それでもまだ食料の自家調達をしたり個性を残しているのは少しうれしかった。子供たちが学校で友達を作ってどう変化するのか楽しみ。

印象に残ったシーン:焚火を囲んで演奏するシーン。レリアンが反抗するシーン。妹夫婦と食事をするシーン。葬式に奇抜な服装で出席するシーン。火葬をするシーン。

余談
・原題は"Captain Fantastic"です。
・一家の名字である”キャッシュ(Cash)"は一般名詞だと「現金」を意味していて、資本主義社会を批判してる彼らがそんな名字を持っているのは一種の皮肉だと思います。