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はじまりへの旅のemilyのレビュー・感想・評価

はじまりへの旅(2016年製作の映画)
3.7
 森の中で暮らし、父親の独自の教育方針にのっとりアスリート並みの強い体をもつ子供達。さらに学力の面でも6か国語を話し、優れていた。しかしある日母親が自殺し、亡くなってしまう。葬式に出席し、彼女の願いをかなえるためはじめて森を出て旅へでる。社会とのギャップに戸惑い、その中で本当に大事な物をたくましく見出していく。

 澄んだ壮大な森での暮らし。日常のルーティンをしっかり描写し、鹿を捉え容赦なく生きるために殺す。父親から学ぶこと、本から学ぶことがすべてであるが、そこにはしっかり愛情があり、小さな子供に対しても一人の人間として敬意を示し、責任能力が備わっている。体を鍛え、心を開放し、勉学に励む。森での暮らしは嫌なことから目をそむけた暮らしでは決してなく、自由と誇りと責任があり、誠実で素直に生きている。それは年齢や性別による区別を超え、”人間”として扱われている生き方である。

 母の死から始まるはじめての旅。そこではじめて比べる対象が出来た時のギャップ、しかしそこから見えてくる本当に大切な物。すべての固定概念を翻し、体に心に素直に従う。そこにギターがあるから奏でる。動物的な直観を信じ、自分の心に素直に生きる。子供達だけではなく、父親の苦悩、そこから見える妻の壮大な愛、素直であることは時に人を傷づける事もあるだろう。しかしそこに嘘がない限り、必ず思いは伝わる。子育て論の妹夫妻との対比は非常に胸に迫る物がある。

 見せたくない物を隠す方が楽なのは、大人の方なのだ。適当な言い訳を並べ、境界線を引いてしまってるのは大人の方なのだ。気が付いたら家族に魅せられ、父の教育方針に共感してる自分がいる。周りは敵だらけでも、その誠意ある行動は伝わる人に伝わればそれでよいのだ。言い訳で誤魔化すのは自己防衛でしかない。大人達に教育の在り方をたたきつける、ユーモラスでありながらメッセージ性の高い作品となっている。
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