垂直落下式サミング

クリード チャンプを継ぐ男の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

5.0
『ロッキー』に『ランボー』といった自身のキャリアを代表する作品に自らの手で終止符を打ち、その後はエクスペンダブルズで後輩に先輩風を吹かし続ける「男のリトマス試験紙」名優スタローン。近年の作品は自らの映画人生を俯瞰した視点で描くものが多く、そして今作は彼の自己批評的な作品群の中でもいよいよ真打ち登場といった内容だ。スタローン版『グラントリノ』と言っていいかもしれない。
偉大な父の影にとらわれた若者の成長物語であり、人生に輝きを失った老人が新たに生きる意味を見出だすヒューマンドラマである。老いたロッキーが今度は自分が指導者の立場となり、在りし日の師ミッキーに与えて貰ったものを盟友アポロ・クリードの忘れ形見アドニスへと託していく。アドニスとロッキーの武侠映画のような師弟関係には誰もが心を打たれるはずだ。俳優たちのボクシングスキルも高く、幾つかのシーンは世界ランカーのパフォーマンスと比較しても遜色ない。演出のマジックによってボクシングという過酷なスポーツのリアルを映画史上最も克明に描き出しているのである。特にパンチドランカーの孤独な老人となったロッキーの姿は非常に痛々しく、スタローンはボクシングに人生を捧げた男ロッキーの晩年を極限のリアリティを持って演じきっている。最後の最後にGonna Fly Nowが流れはじめたとき、ロッキーのソウルは世代を越えて永遠に継承されていくものなのだと、私たちの中にもロッキーの信念は確かに存在しているのだと、目頭が熱くなった。
『ロッキー』リアルタイム世代でない私にとって、ロッキー・バルボアの伝説に憧れるアドニスの姿はシリーズの中で最も真に迫るものがあった。
物語は、時代を超えて、語り手を変えて、創造主の手をはなれて、なおも続くから価値がある。