sanbon

クリード チャンプを継ぐ男のsanbonのレビュー・感想・評価

3.7
まず、日本という島国は何故かスポ根の文化が非常に強く根付く「スポ根先進国」であり、そのスピリットを幼少の頃より主に漫画などによって刷り込まれてきた民族である。

そんな国民性から見ても本作は、始まりの物語として完璧な導入であったと思う。

ちなみにロッキーシリーズは一切通って来なかった為、本レビューはクリード単体での評価と理解頂きたい。

父親の事を一切知らずに育ち、荒れた幼少期を過ごす主人公の前に、父を知るという女性が現れ、父が伝説のボクサーであった事を知り、その背中に強く焦がれるようになる。

その後成長した彼は立派に更生し、充足に満ちていた生活を捨ててまで、父の面影を追いかけるように同じ道を歩み始めた。

ロッキーシリーズを完全にフリに使ったネクストジェネレーションものとして、馴染み深い言わば王道的な始まりである。

また、今作でのロッキーの役どころは主人公アドニスのトレーナーであり、闘う相手もボクサーから自身が患う病気へと変更されている。

そんな今作で描かれるテーマは自分との戦い。

父に憧れ始めたボクシングも、いざ自分がアポロの息子だと世間に認知されると、その偉大すぎる過去の威光は自分自身の存在証明の足枷となり、周りも中々彼自身を認めようとはしない。

そんな向かい風の境遇の中で、敵は対戦相手やそんな環境ではなく自分自身であると、ロッキーはアドニスに説く。

それは時に、鏡越しのシャドーボクシングを例えに、己を見つめ己に勝つ事こそ自己の証明になると、この作品は映像やセリフで幾度となく伝えてくる。

それは脇役に徹するロッキーからも、闘病という形で表現されている。

そして、己に勝つというメッセージと共に語られるのは、そんなテーマとは対極にあるように思える決して一人ではないという事実。

印象的であり、今作最大の落涙ポイントである、アポロが使用していた物と同じ星条旗カラーのボクサートランクスや、アドニスが気絶した際に走馬灯のように脳裏を駆け巡る大切な人々の存在が強烈なメッセージ性を醸し出し、"一人"と"独り"は決して同じではない事を教えてくれる。

タイトル戦の結末は意外なものだったが、続編ありきで見れば期待が持てる終わり方だったとも思うので、これはこれでアリである。

冒頭で語ったように、スポ根に慣れ親しんできた身からすると、いつかどこかで見聞きしたお手本の様なプロットではあったが、その分安定して楽しめる作品に仕上がっていた。

ただ、試合のシーンはもう少し心理描写なりスローモーションなりで、溜めがあったほうが個人的には好みだった。
sanbon

sanbon