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山の音のtjZeroのレビュー・感想・評価

山の音(1954年製作の映画)
3.8
鎌倉の二世代同居のサラリーマン家庭。
長男(上原謙)が他に女を作っているのは公然の秘密になっている。

そんな、表面上は穏やかな一家に、子連れの長女が出戻って来たのを機に、小さな亀裂が拡大していく。その繊細な描き方に見応えあり。

画面上は静かな台詞のやりとり、平穏な表情で語り合うそれぞれの登場人物たちなのだが、その裏で感情や心理がグラグラと揺れているのが確かに感じられる。落ちついているのにドラマティック。

まるで、静かな湖面を優雅に泳ぐ水鳥が、水面下では必死に足ひれを動かしているかのよう。

そして、それぞれのキャラクターに芯があって、存在感がある。
皆が言いたい事を言い、筋が通っていて、誰が良いとか悪いとか単純に決めつけられない、深みがあって”オトナ~”な描き方。

家族間のいさかいを経て、父親(山村聰)と義理の娘(原節子)が親子でもなく、男女でもない、まるで親友(戦友)同士のような清冽な関係になっていくのが一服の清涼剤になっている。
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