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山の音のYOU5521のレビュー・感想・評価

山の音(1954年製作の映画)
3.6
作家(小説の話)で全部の作品を読んだのは
夏目漱石と太宰治とこの川端康成。
川端は同時代の三島由紀夫の才能に
一目置いていて,
川端がノーベル文学賞をとったとき
三島に申し訳ない、というようなことを
言っていた。
だからどうしても川端は三島の下みたいな
前知識が頭から離れないのだが、
川端の文章に触れる度に、
その頭の中にある硬い塊はすっーと氷解する

川端の作品は日本文学史上、
唯一無二の芸術性があると僕は思う。
川端が描く普通の日常は
どこかドラマチックだったり、
ロマンチックだったりしていて、
生活臭さを感じないのだ。
映画にもそういう作品がある。
好きだからそう感じるのか
そう感じたから好きになったのか
はわからないが、
森田芳光監督の『それから』などは
そうだった。
松田優作と笠智衆の沈黙、
饅頭を食べる音だけのシーンなどは
頭の中で何度も反芻された。
自分が主人公を演じているような
不思議な気分になるのだ

話はそれたが、
だから川端の芸術性をきちんと描ければ
これほど映画と相性良いものはないと思う。
岸恵子主演の映画『雪国』も
吉永小百合、山口百恵の『伊豆の踊り子』も
よくできた作品だと思う

そしてこの『山の音』もいい。
全体の静かさと、やはり原節子の上品さは
この映画の質を高めていると思う。
モノクロなのもいい

裏のありそうな夫が寝床から
「菊子、菊子」と濁った声で呼ぶシーン。
廊下で振り返った原節子が一瞬見せる
険しい表情は圧巻だ

秘書がお面をつけるシーンは
素晴らしい。味わい深い

しかし古い時代の話だが、
全然古臭くなくて、
女性の自由と自立、
父親の柔らかな表情は
現在に通じるものがある
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ハリウッドの商業的映画も、
娯楽優先の映画もそれはそれ
映画なんだから何でもありだと思う。
それが映画の懐の深さだ。
でも「芸術」的なのはやっぱり魅力的
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P.S.
ラストの『第三の男』に出てきたような
枯れ並木の場所は新宿御苑らしい
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