川端康成の傑作長編を原作とした文芸作品。
老いへの恐れ、夢に現れる嫁への性的願望、また敗戦の心的影響などの重要な原作のテーマは思い切って捨てさられる。
そのぶん、菊子の不憫さや苦悩ばかりが強調され、原節子もそれをあからさまに演じており、それこそ「能面」のように本心を表さない菊子がクライマックスにいたってはじめて内面を顕にするという、川端の周到なたくらみは崩壊している。
「かわいそうな嫁」をえがいた凡庸なホームドラマに姿を変えているが、逆にいえばそれを核に作品としてはうまくまとまっているとも言える。
ただ、原作を知らなければなんのことやらという場面も。
新宿御苑の場面をラストへもってくるのは見事。