LalaーMukuーMerry

アリスのままでのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

アリスのままで(2014年製作の映画)
4.2
この作品の原作者リサ・ジェノバは神経科学者。多くの認知症患者と向き合った経験をもとに書いた作品を自費出版したのがベストセラーとなり映画化されました。NHKの番組TEDで作家としてではなく神経科学者として「アルツハイマー病を予防するためにできること」という彼女のプレゼンを見たのが、私が本作を見るきっかけとなりました。
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若年性アルツハイマーの主人公、50才のアリス(=ジュリアン・ムーア)が少しずつ記憶をなくしていく様子が丁寧に描かれます。ものごとの記憶は失われていきますが、感情の記憶は残るのですね。記憶が失われていく間、本人がそれをどう感じているかといったことまで描かれます。それを想像すると胸がなんとも締めつけられる思いがしました。特に、記憶がどんなに大切なものかという彼女のスピーチが胸を打ちました。彼女と同年代以上の人には他人事とは思えない、得体のしれない不安が胸をよぎることでしょう。
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神経科学的にはアルツハイマー病は神経細胞のシナプスの間にアミロイドβというたんぱく質が蓄積されていって臨界点に達して、神経伝達が機能しなくなると発症し始めるということのようです。アルツハイマー病の発症に関係していると考えられている因子は、年齢、睡眠、有酸素運動、遺伝、循環器系の状態、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙等いろいろありますが、完全に予防できる術も、完治する方法もありません。
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しかし次の事実はこの病に向き合うヒントになります。脳のMRI診断ではアルツハイマーの症状が出ているはずの程度まで状態が進行しているにもかかわらず、ごく普通に暮らしている例が結構あるそうです。こういう人は、神経の回路網が実は絶ち切られてないのです。
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大切なことは脳の神経可塑性、認知予備力を有効に使うこと、つまり脳を刺激して新しい神経ネットワークをつくっておくこと、アルツハイマー病で神経ネットワークが失われても、それを補う別の回路を作っておくことだそうです。そのためには強く新鮮な刺激を脳に与えること、例えば、外国語を学ぶ、新しい友達をつくる、本を読む、絵を描く、編み物をする、踊りをする、楽器を演奏する・・・。要は日々チャレンジするということ。60の手習いといいますが、とても良い事のようです。