むーしゅ

アリスのままでのむーしゅのレビュー・感想・評価

アリスのままで(2014年製作の映画)
4.1
 Lisa Genovaの小説「静かなるアリス」を原作とした作品。この映画を機にこの謎の小説版タイトルも「アリスのままで」に統一された様子。原題の"Still Alice"はその音も含めて秀逸ですが、邦題の「アリスのままで」も、ありたいと願う気持ちが込められているようでなかなか好きです。

 言語学者のアリス・ハウランドは、仕事も家庭も充実した生活を送っていたが、ある日医師から若年性アルツハイマー病と診断され、戸惑いながらも闘病生活が始まる、という話。まだまだこれから人生を楽しもうとしている50歳という若さでアルツハイマーが見つかったことの絶望、しかもその病は遺伝性で3人の子供達に遺伝している可能性があるという絶望。家族へ打ち明けるシーンは見ていてつらかったです。しかもこの映画を撮ったのは、自らALS(筋萎縮性側索硬化症)と戦いながらも本作が遺作となってしまったRichard Glatzer監督とそのパートナーのWash Westmoreland監督。アリスが作中で「私が私でいられる最後の夏」と言っていましたが、恐らくGlatzer監督も自分が出来る最後の作品だとわかっていたんでしょう。きっとアリスの気持ちが痛いほどわかった監督だからこそ、セリフから監督の思いがあふれ出てくるような、すごくリアルな映画でした。ちなみにこの二人だったから最後の戯曲がTony Kushnerの同性愛者とエイズをテーマにした"Angels in America"からの抜粋だったんですかね。

 話を戻して、そのリアルさを助けたのはもちろんアカデミー主演女優賞を受賞したJulianne Mooreですね。正直Julianne Mooreの演技は、今までの作品ではかなり刺々しいイメージがあり、またキャラクター的にもヒステリックなイメージも強く非常に苦手だったのですが、本作ではその毒針を自分に刺しているような、そしてそれによってより気持ちを奮い立たせているような、脆くて強い演技が非常に印象的でした。原作者の思い、そして監督の思いをここまで表現できたのはJulianne Mooreのチカラだと思うのでアカデミー賞も納得でした。

 原作者はLisa Genovaという神経科学者ですが、彼女の祖母がアルツハイマーになったことが執筆のきっかけとなったそう。ちなみに彼女の祖母は自身の娘もわからないのに、プラスティックの人形を本物の赤ちゃんとして扱っていたそうで、それにショックを受けたと語っていました。執筆に際し、さすがは研究者、アルツハイマーの研究本を片っ端から読み漁り、実際のインタビューなども踏まえてかなり忠実に仕上げたそうです。ストーリーの骨格がしっかりしているのはこのあたりのおかげですね。テーマは重いですが、噛み締めるべき映画でした。
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