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ボーダーラインのtkykのレビュー・感想・評価

ボーダーライン(2015年製作の映画)
4.7
個人的には麻薬戦争の映画としては傑作と言える映画だと思う。
「ナルコス」を観て麻薬戦争の過酷さを知ったが、その過酷さを2時間にまとめている点が素晴らしかった。

麻薬戦争と言えばCIAの超法規的行動による暗躍と警察の買収、カルテル同士の競争が肝となるが、2時間でそれを全て網羅していた。
確かにアメリカでのボスが1人で移動する点や買収された警察に遭遇する点、1人で簡単にトップにたどり着いちゃう点はご都合的ではあるが、それを上回るほどに麻薬戦争に関わる人々を漏れなく描いていた。特にカルテル側の人物に家族がいることを画で見せており、視聴者に善悪の境界を持たせにくくしている語り口は素晴らしかった。カルテルがやる事は許されない事ではあるが、それを単純な悪として切り捨てて良いのか考えさせるものだった。

演出も素晴らしかった。全体的に暗い場面が多く、この映画の緊迫感と落ち着いた雰囲気を演出していた。明るい場面はメキシコの空撮が何度か映され、南米の風土も相まって乾いた空気感が出ていて、映画全体の落ち着いた感じに合っていた。
個人的には序盤の国境でのシーンが1番好きだった。あのシーンでメキシコ警察の買収とカルテルの残虐性とアメリカの超法規的行動を全て見せており、麻薬戦争の無秩序が伝わった。
国境近辺では車内からの視点となり、カルテルに見張られている緊迫感をケイトの視点から体験できたのがとても良かった。
音楽も素晴らしく、重低音が緊迫感を十分煽っていた。

この映画は「麻薬戦争に勝つには法の遵守という綺麗事は通用しない」とでも言わんばかりにアメリカの超法規的行動とそれに困惑する人物を描いているが、カルテルの残虐性を見せることで、観ている側も「正義のためには法を破ることも仕方ないのでは」と思ってしまう。
さらに一見悪だと思っている人物にもその悪を働く理由としての正義がある事が描かれるので、争いは終わる事がないと思わされる上に、争いを止められない人間の愚かさまで感じた。
ベニチオ・デル・トロの雰囲気と演技がとてつもなく素晴らしいのは言うまでもない。
Netflixで「ナルコス」と「ボーダーライン」を両方観ることを強くお勧めしたい。
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