TaiRa

ボーダーラインのTaiRaのレビュー・感想・評価

ボーダーライン(2015年製作の映画)
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続編への予習で再見。ながら見のつもりが思いのほか見入ってしまった。

ロジャー・ディーキンスの撮影はバキバキに決まっており、ヨハン・ヨハンソンの劇伴はこの上なく良い。改めて思ったが、これはアクション映画等の部類ではなくホラー映画に近い。ベースにしているのが『羊たちの沈黙』なのであながち間違いでもないと思う。FBI女性捜査官の視点から混沌と闇を見つめる作り。主人公は戦闘にも参加出来ず、暴力に支配された地獄を前に只々無力感を覚えるだけ。「闇の奥」へ突き進む感覚は『地獄の黙示録』に近いとも感じた。その一端を担うのはディーキンスの撮影。日没時の燃えるような空を映すショットが多いのも「世界の終わり」「黙示録」を感じさせる効果がある。空撮の多用も人間の小ささを強調し無力感を生む。また、世界を俯瞰したニヒリズムも感じさせる。カオスの使者である男をベニチオ・デル・トロが好演し、彼のベストアクトを更新した。名もなき男として扱われてもおかしくない、ある警官の人生を物語の合間合間にインサートして行く構成も、現在のメキシコを取り巻く環境を如実に表している。その結果をラストに持って来るのも作り手の真摯さがある。善も悪もない世界で被害を受けているのは誰か、という終わり。

ヴィルヌーヴは脚本家が誰であっても、毎度「世界のどうにもならなさ」を描いているのが面白い。
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