みじんコ

ボーダーラインのみじんコのレビュー・感想・評価

ボーダーライン(2015年製作の映画)
3.5
【アウトローを傍観するしか無い、力無き正義の物語】

巨大化するメキシコ麻薬カルテルを殲滅すべく、超法規的特別部隊にリクルートされた、エリートFBI捜査官ケイト。

彼女は部隊への参加を悩むが、今の立場では末端の犯罪者が起こす事件の火消しに追われるだけで巨悪の根源に辿り着く事はできないと、ピュア正義感から特別部隊への参加を志願します。

しかし麻薬カルテルとの戦いの現場は彼女の想像を超える『法無き世界』だった… 

そんな感じでこの映画は始まります。



序盤の展開を見てこの映画は『ゼロ・ダークサーティー』や『トレーニングデイ』のような新米捜査官が先輩捜査官にしごかれ、数々の修羅場をくぐって成長し、一人前の『兵士』に育ってゆく物語なのだな……と思っていました……



ところが! 



現場に放り込まれた主人公ケイトは、参加している作戦の意味も良くわからず、周囲で起こっている状況も理解できず、そもそも同僚やその周辺の人間さえも敵なのか味方なのか信用することができない……

彼女は終始状況に振り回され続けるだけで、見ている観客も彼女と同じ気持ちを味わされ続けることになります。

そう、この映画は前記したような新米捜査官の成長を描くような作品ではなく、観客をメキシコ麻薬犯罪の現場にブチ込み、そのカオスを味あわせる映画なのでした…!

そんな過酷な状況でも主人公ケイトはなけ無しの勇気とプライドを奮い立たせ、巨悪に対して『法の裁き』を下すべく孤軍奮闘します、それが彼女の信じる『法治国家』の姿なのでしょう……しかしその姿は『法』を超越した戦いを繰り広げる犯罪組織や同僚達の前には滑稽でさえあります。


『悪』を制するには自らがそれを超える『悪』になるしかない。


『イコライザー』や『ジョン・ウィック』等の映画はそんな情け無用の『アウトロー』の姿をヒロイックに、口当たりの良いエンタテイメントとして表現しています。

しかし『ボーダーライン』に登場する”アウトロー”が行う『正義の裁き』は善悪の”ボーダーライン”を完全に越える非人道的な所業でした。

そんなアウトロー対して”ボーダーライン”を越えることができず、ちっぽけな『正義感』に固執し続けることしかできない主人公ケイトは情けない姿を晒し続ける事しかできません。

でもそんなケイトの姿は『法』に守られていなければ平穏に生きてゆくことができない僕達と何ら変わりはないのでしょう…。

『ボーダーライン』はそんなアウトローの所業を傍観するしか無い私達の『苦い正義の物語』なのでした。


〜怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。

おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。〜

フリードリヒ・ニーチェ『善悪の彼岸』
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