Asro

ボーダーラインのAsroのレビュー・感想・評価

ボーダーライン(2015年製作の映画)
4.5
準備に美が宿る映画

カルテルのボスを倒す為に動く謎の組織にFBI所属の2人が選出される。2人は組織に協力しながらも疑問が消えない。

ドゥニ・ヴィルヌーブ監督の良さがとても出ていた。
この人はその場の空気感を撮りきれる人だ。
場所がどこでそこはどんな雰囲気なのかをとても大切にしている。その場所の独自性に宿る神を信じている。

ヴィルヌーブ監督は1歩どころか100歩くらい引いたショットを多用する。

その場所に詰まってる色や空気、物体、人間のフレーム全体を撮りきることで内部から醸し出される匂いがあると信じて疑わない監督だ。

僕はその信念にとても共感できる。

この監督は人間の恐ろしさを知っている。恐ろしさというものはいつも急に現れる。
その急なものをより効果的に印象づける為に監督は長い長い空気の発酵を行う。

この過程こそがこの監督の本質だと思う。過程を全て美しく存在させることに成功している。



異様な場所に普遍的な空の美しさ、少し日が落ちて闇に染まりぼやける人間の姿、それは個が剥奪され全体の一部になることだ。
だからこそ相手をより近くに感じ、近くにいる人を同じ種だと思い、愛おしく思う。
だけどもその人のことなんて分からない。本当は化け物かもしれない。でも僕らは相手を愛おしく感じてしまう。
僕らはその隙を持ちながら生きていかなければいけない。
持たざるをえない。
生きにくい。生きにくいけど美しい空はいつだってそこに存在している。
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