豊島区民

グレイテスト・ショーマンの豊島区民のレビュー・感想・評価

グレイテスト・ショーマン(2017年製作の映画)
3.7
素晴らしい!と思わず褒めたくのを我慢して、敢えて厳し目に。端的に言えば、ミュージカルとしては良く出来ているが、映画としては欠陥を抱えている。

ミュージカル映画らしく感情が盛り上がる部分での歌への持って行き方が素晴らしい。特に冒頭の「The Greatest Show」や「This is Me」などは名曲であり、とても感情が揺さぶられるシーン。ここは歌で感情を爆発させて欲しい…!と思うシーンにおいて、演者と歌、そして観客の感情が完璧なまでにマッチングする。ミュージカルの演出としては最高である。
しかし、映画における物語としてはどうか。本作においては「起、承、転、結」の“起“の部分の描写が決定的に欠けているので、物語としては薄い印象になってしまっている。
序盤、バーナムがサーカス団の団員をスカウトしていくシーン。彼等はそれぞれがその容姿や境遇から世間に対して負い目や引け目を感じている人々である。そんな彼等を敢えて人前に晒すような仕事に誘う以上、互いに葛藤や苦悩といったものが必然的に発生してくるはずである。それがほぼ皆無。気が付いたらサーカス団に参加することになっているし、興行的にも一定の成功を収めてしまう。普通の感覚からするとそんなに簡単に物事が進むことはない、おかしいと気付くはず。
中盤以降、物語が大きく動く局面において、彼等サーカス団員の行動がバーナムに対して非常に重要な意味を持ってくることに鑑みれば、バーナムと彼等サーカス団員との関係性は、この作品を観る上でとても重要な要素である。その部分を省略してしまっているために、中盤以降を素直に楽しめなくなってしまった点が非常に残念。
加えて、昨今のハリウッド映画においては人種問題や差別問題は避けて通れない部分である。本作では多種多様な登場人物が登場しており、サーカス団員と一般市民との衝突シーンなどは一応あるものの、こうした問題への直接的な言及は強力控えているような印象。「This is Me(これが私)」と自己主張はしているものの、社会との軋轢や衝突とそれに向き合っていく姿勢といった部分の描写は弱いように受け取れる。105分という尺の短さを考えると、こうした部分に厚みを持たせるシーンをいくつか入れるだけでも大分良くなるのではないかと感じた。
あと、個人的には主演のヒュー・ジャックマンより、ザック・エフロンの方が輝いて見えた。

総論として、人間ドラマとしては薄いということに尽きるが、前述の通り、ミュージカルとしての面白さは特筆すべき点であり、その点は素直に評価したい。

IMAX2D
豊島区民

豊島区民