Matilda

グレイテスト・ショーマンのMatildaのレビュー・感想・評価

グレイテスト・ショーマン(2017年製作の映画)
4.8
※ネタバレありますので鑑賞後に読むことをおすすめします。初見後Twitterにふせったーで載せた感想とはまた変わっていたりするのでご注意を。2回目観たら考えがかなり変わってしまいました(笑)

今作は実在した伝説の興行師P.T.バーナムの生涯を描いた伝記映画。
私は、この企画を知ってから今作をずっと楽しみにしていました。
企画自体、7年も前からあったもので、その過程には制作中止の危機もあったと言います。
批評家の酷評から、観客の熱狂的支持により奇跡の挽回を遂げた今作。まさにこの流れは映画と同じようで、とても感慨深いです。

私は今までのミュージカル映画の中で、今作が一番好きかもしれません。ミュージカルとして完璧すぎる。この映画を観ている時間、私はとても幸せでした。夢を見ているようなその素晴らしすぎる空間に、ただひたすら心を奪われていました。

開始3秒でグッと世界に引きずり込まれたと思ったら、もうすぐにラストスパートまで来ている。そんな印象でした。この映画が終わってしまうのが悲しいなんて寂しがっている余裕さえない。ストーリー展開がはやすぎるとの指摘もありますが、そのスピード感こそ、私の好きな部分です。

今作はある1人の男性が、愛する女性を幸せにするために奮闘するところから始まります。彼は自身の想像力を生かし、街中でのフリークショーで大成功をおさめるのですが、彼の幼い頃の屈辱が彼をそこでは満足させなかった。貧乏な自分たち家族をバカにした上流階級の人々をも、あっと言わせたかったのです。
そこで彼は美しい歌姫と出会う。この歌姫との出会いが、彼の家族を壊してしまいます。しかし失ってから彼は気づく。このショーも何もかも、家族のため、愛する妻のために始めたことなのだと。自分の大切なものは最初からそばにあったのだと。そして、彼は良き夫であり、良き父親であることを誓うのです。

彼が家族のためにここまでのことを成し遂げられたのは、彼の家族への愛、豊かな想像力もあるかとは思いますが、一番に彼自身が持つ「上流階級への復讐心」のようなものがあると思います。
彼の妻チャリティは上流階級出身ですが、そうとは思えないほどの心の広さの持ち主です。しかしそれ以外の人々はどうでしょうか。チャリティの父は小さい頃からバーナムを馬鹿にしていましたし、父を失い路上で暮らすストリートチルドレンの彼に人々は手を貸しませんでした。
その小さい頃からの屈辱が、彼に成功への執着心を植え付けたのだと思います。

そしてその彼が初めてその思いを共有できたのが、歌姫ジェニーだったのだと思います。婚外子として家族にさえ疎まれてきた彼女が、「いくらスポットライトの光を浴びても、大喝采をもらっても私の心は満ち足りない。心の穴は埋まることはない。」と歌う姿を見て、彼はその歌のうまさだけではなく、その彼女の声に込められた思いに心から共感したのでしょう。境遇が多少なりとも似ていた彼らが心を通わせるのは当然のことだったのだと思います。

そして彼は、もうひとつ成し遂げた大きなことがあります。それは、疎まれ蔑まれてきた人々を世に送り出したことです。
この点については金のために見せ物にしたという指摘もあり、それも理解できます。しかし、パフォーマーたちの台詞にこうあります。「目的が金儲けであったとしても、あなたは私達に『家』をくれた。」そして彼らはバーナムを励ますのです。

すべてはここに尽きると思うのです。彼らは表舞台はおろか街中にさえ出ることができなかった。母親にも疎まれて今まで生きてきた。バーナムはそんな彼らと一人一人話し、彼らの不安の声も聞きました。小男のトムや髭女のレティには「きっと愛される」と言い、他のパフォーマー達を喜んでショーの一員として迎え入れた。ショーの準備を手伝ったり、一人一人とちゃんと向き合っている。そんな経験は彼らにはなかったはずです。
ありのままの姿で堂々と踊って歌って、そして観客から嘲笑ではなく本物の笑顔を、大喝采をもらう。そんな居場所をくれたバーナムにパフォーマー達は本当に感謝していたのだと、私は思います。

ストーリー展開のはやさ、薄さ、主人公バーナムの人柄故に批判されるところも多い今作ですが、エンターテイメントとしては100点満点の素晴らしい作品だと思います。開始3秒で観客の心を掴み、その後も神曲の連続。どの曲が一番好きかと聞かれると選ぶのが難しいです。美しい景観に衣装に歌に、最高のミュージカルでした。

そしてところどころの演出もニクい。
主人公の子供時代から大人になるまでを描いたA Million Dreamsでの手紙のやりとりの健気さや満月を背景に踊る2人の幸福感。The Other Sideでのバーでのシーン。これはリハーサルにかなりの日数を費やしたそうですがそれも納得。『3人』共最高です。ショットを使っているのも良い。Rewrite The Starsでは9割のスタントを彼ら自身がこなしていると知り驚きました。空中で舞う彼らはまぎれもなく愛し合っているのに地上に降りると現実が彼らを引き離してしまう。この夢のような数分、運命を変えようという彼と運命は変えられないという彼女。その切なさが尾を引きました。

私のお気に入りはTightropeのワンシーンです。愛する夫が傍にいない寂しさを歌うチャリティ。彼女はバーナムと家の中で踊ります。でもそれは彼女の幻想に過ぎない。そのカーテンの演出が本当に本当にニクいのです。舞台ではできない演出。
こう考えるとやはり私はどうしても、曲中ばかりに目がいってしまっているのでそれ以外については今後また観に行きたいと思います。

キャストについてはもう完璧としか言いようがないです。
ヒュージャックマンの49歳にしてあの若々しさ。歌もダンスも演技も完璧にできてしまうところ、本当に凄すぎると思います。HSMやヘアスプレーを経てまた歌の世界に戻ってきたザックエフロンもHSMどはまり世代としては見逃せません。
そして今話題のゼンデイヤ。あの瞬間は誰もが恋に落ちるはずですし、大勢の中でのびのびと響き渡る歌声もザックエフロンとのデュエットで若きヒロインとしてこれ以上ないほどの魅力的な歌声も強く耳に残りました。
ヒロインと言えばミシェルウィリアムズ。この方も老いを知らない!彼女が歌えるとは知らなかったのですが、今までダークトーンの作品が多かった彼女が笑顔で歌う姿を見てとても嬉しかったですし、Tightropeのその切なげな表情も彼女だからこそできるものだと思いました。

この完璧なキャスト陣の中で私が一番心を奪われたのは、レベッカファーガソンでした。Never Enoughの歌は吹き替えを別の方がされていて、彼女は演技のみだったのですがそれも情報で知らなければ分からないほどの完璧な演技。本当にそこで歌っているようでした。
ジェニーリンドは家族にも愛されず、舞台でも1人で歌うしかない、とてつもなく孤独な存在で、でもその悲惨さが彼女の美しさを際立てている、そんな女性でした。そしてスクリーンにいたのはジェニーを演じるレベッカではなく、ジェニーリンドそのもの。それくらい、彼女の演技は素晴らしかったのだと思います。

今作は本当に、私の心を強く揺さぶる作品でした。色んな人の色んな思いが、歌に演技に綴られていて、共感できるものもたくさんあって、本当にこの映画に出会えてよかったと思います。

代表的な楽曲This is meは沢山の人の心に響き、人々を勇気づけるものとなるでしょう。この映画は家族思いのある1人の男の生涯を描きながらも、一人一人の人間を肯定し、「誰一人、愛されない者などいない。全員に、愛される価値がある。」と教えてくれました。

この映画に、この歌に、沢山の人が励まされ、前を向いていけますように。
Matilda

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