曇天

アサシン クリードの曇天のレビュー・感想・評価

アサシン クリード(2016年製作の映画)
4.5
またボンクラを喜ばせてくれる一大コンテンツが実写化。
ゲーム版から多少設定を作り替えてるが「映画にするなら」を念頭に据えてブラッシュアップ。SF的舞台装置と歴史上の事件へのタイムスリップ、陰謀論、パルクールアクション、鳥瞰、映画版では哲学的問題まで加わって…、UBIソフトはオタクをとことんグーグル漬けにしたいらしい。とはいえ教養のお勉強目的と思えば楽しい。

公式HPではテンプル騎士団が邪悪な悪の組織という創作上の設定しか書かれてないが、史実では十字軍以降の巡礼防衛のため誕生、スペイン絡みではレコンキスタを手伝ったそうで。ちょうど劇中の1492年がレコンキスタ完了の年で、当のナスル朝グラナダのスルタンも登場。調べたらこのレコンキスタとスペインの異端審問と、最後に出てくる人物の活動も同じスペイン王国のイザベル1世の治世下の出来事なんだな。良い時代を見つけたもんだ。

ちなみにアサシンは十字軍時代のイスラム教イスマーイール派のニザール派が暗殺集団と言われていたらしいが、彼らはイスラム教の本流から疎まれていて、史料的証拠もないので今ではニザール派を貶めるための噂話と見なされています。

社会的には偏見があるからこそ暴力が生まれる。偏見が原因なのは最初の一打だけであって、それ以降は報復合戦となってしまって手が付けられない。歴史の本質という面だけでなく個人的性質としての暴力にも話が広がっていた。

遺伝で性格が作られるか、暴力性は遺伝によるものかというところでは、今現在では遺伝要因の部分もあり環境要因の部分もあるという見方らしい。暴力を起こさせる感情は怒り、恐怖、快楽目的と様々だろうし、環境によって暴力が必要な時もあるはず。

大規模な戦争は減ったけど目立たない場所で間接的な戦争は続いていて、個人的な暴力もなくならない。人間がもっと成熟して軍隊での戦争を起こさせない空気が紛争地域にも広がっていけばいいとは思う。けど個人的な暴力は個々人の努力で折り合いを付けていける範囲ではないか。それ以上に社会的には権力も暴力を振るうので、対抗するために暴力が必要だという状況がある。ソフィアの言う暴力の治療というのはおそらく個人的・衝動的なものだけでこれは理想的だけど、権力が武器を持ち続けるなら結局は独占なので結局はディストピアなんじゃないかと。

現実的視点で見れば、個人的暴力からの脱却のためしぶしぶ協力するカラムは断酒会に通う親父のような情けなさを帯びてるし(精神科病棟のような極端さが特に皮肉)、テンプル騎士団を代表するアランには世界を救おうとする宗教の傲慢さが現れてる(既視感すごい)。ソフィアはさしずめ断酒できない暴力夫の妻か。うさんくさい女研究者ということで割烹着の幻覚が見えてこないこともない。欲を言えば最後の人物の暴力描写も強調してくれたら痛快だったのに、アメリカでは論争の種だから避けたのか?
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