垂直落下式サミング

バレエボーイズの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

バレエボーイズ(2014年製作の映画)
4.2
プロのバレエダンサーを夢見る少年たちを追うノルウェーのドキュメンタリー。
ルーカス、シーヴェルト、トルゲールという3人のバレエダンサーを目指す男の子に四年間密着して、彼らのバレエの練習やコンテストはもちろん、学校の成績や将来の進路に悩む姿を映していく。
その結果、この映画はとてつもなく残酷な現実を直視してしまう。いつも三人でつるんでいた彼らにとっての「一番よかった時期」が、才能の有無という選別によって否応もなく終わってしまう様子を撮っているのである。
仲のいい友達とふざけて、バカやって、練習をして、そんな親友という関係が、ルーカスの留学が決まった頃から微妙に綻びだす。もちろん、彼らが今後どうなるかはわからないし、ルーカス以外のいい学校に行けなかった子もまだ諦めたわけじゃない。でも、シーヴェルトとトルゲールは、ずっと一緒に帰り道を並んで歩いたルーカスとは、道を別れてしまったことを実感してしまう。ここをもって、誰にでも自分を見つめなければいけない時期が来ると、普遍的な成長のドラマとしてもとらえることができる。
ルーカスは天才で、トルゲールは楽観的な子なので、私が一番感情移入が出来たのはシーヴェルトだった。他の二人に比べて、彼女が欲しいとか成績が悪いとか、思春期中学生ならではの問題を切実に悩んでいる子だ。
中盤でシーヴェルトは、バレエを続けるか勉強を頑張るかという決断を迫られる。彼のバレエに対する姿勢は、優柔不断に見えるが、子供なりに自分で真剣に考えて重大な決断をすることしていて、カメラには映ってないけど、ご両親とは本当に真剣に話したのだと思う。

ルーカス
「最近、シーヴェルトとトルゲールはいつもより仲良くなったんだ。彼らはあと三年一緒だからね」

シーヴェルト
「ルーカスはプロになる。でも僕はわからない。まだ迷ってるんだ。ダンサーにはなりたいけど…この学校なら他の選択肢もある」

ルーカスとシーヴェルトは特に仲が良かったこともあり、映画のなかで彼らの成長を追って観ていれば、このセリフはどうしたって苦しく胸に刺さる。子供にこんな残酷なこと言わせるなよ。
ラストで現在のルーカスにインタビューするシーンがあるのだけど、もう別人だ。彼の変貌に感心すると同時に、「あの頃」には二度と戻れないのだと、観賞後は取り残されたかのような冷たい喪失感が垂れ込める。