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ブルックリンのmasayaanのレビュー・感想・評価

ブルックリン(2015年製作の映画)
4.6
恋の三角関係がありつつ、しかしそれが100%の主題という風でもなく、主に手紙を介して極まるファミリー・メロドラマの高まりがありつつ、それも100%の主題ではなく、つまりそういう面倒臭い事だらけの人生の中で、「自分の生きる場所を・相手を自分で決める」という、ただそれだけの話ではある。おまけに登場人物たちはみな「真っ直ぐ」で、苦難も過ちも一定の節度の中で描かれるように、「NHKの朝ドラ感」というのはもっとも優れた指摘だろう。とは言え、サブカル女のこじれを描いたインディー映画が、ストレートな女の子の奮闘記を描いたウェルメイド映画より優れる理由など何もなく、僕はこの映画の真っ直ぐさがとても好きだ。『雨に唄えば』のポスターが大写しになる瞬間、どうしても涙がこぼれるのを堪えられなかった。光の入り方を贅沢に計算したキメのショットは少し多い気もしたが、「名ゼリフ」みたいなもので決められるよりは遥かに良い。また、この映画のテーマを考える時に、本作とは歌われた背景は全く違うが、サイモンとガーファンクルの「アメリカ」を思わずにはいられない。あの曲の一節にもあったが、都会に出て暮らすということは、自分は探す事ではなく自分を「失くす」事だということがまず、キッチリ描かれている。あるいは、あの曲の流れる『あの頃ペニーレインと』の、お姉ちゃんの視点からの物語があったら、これと共鳴したかも知れない。手堅い脚本だなーと思いきや、秀作『17歳の肖像』や、駄作ではない『わたしに会うまでの1600キロ』の人だった。「その後の人生の雲行きがどっちとも取れない絶妙な終わり方」みたいなのが一つの傾向としてあると思うのだけど、映画がどう終わろうと、彼ら彼女らのその後なんて誰にも保証できないわけで。だから、本質的にはそんなものはどう終わろうと関係ない。ただ、自分は「どっちでも同じなら、ハッピーエンドの方がお得でしょ」というお気楽主義なのでして、その意味で、堂々とハッピーエンドを勝ち取った本作の真っ直ぐさは大いに気に入った。
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