Azuという名のブシェミ夫人

ブルックリンのAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

ブルックリン(2015年製作の映画)
3.8
1950年代アメリカ・ブルックリンに渡ったアイルランド人移民エイリシュの物語。
困難な人生を生き抜く強き女性の生き様!だとかそんなに仰々しいものでもなくて、住まいや仕事が用意されているなど割と恵まれた環境に置かれた普通の女の子なので、親近感を持って見易い。

慣れ親しんだ旧き居場所から離れる心細さと恋しさ、それとは裏腹に離れたことで際立って感じる嫌悪感や疎ましさ。
この物語は新天地が異国だけど、例えばこの4月から進学する、就職・転職する、部署異動で職場が変わる、故郷を離れる等々、色んなかたちで新たな世界に身を置くことになる人というのは多いと思うし、これまでに多数の人が大なり小なり同様の経験をされたことがあるでしょう。
だからなのか、物語は特に驚くようなことも無く淡々としているけれど、妙にグッと胸に迫るものがある。

どこへ行こうとも良い面と悪い面はつきまとうし、心に上手く折り合いをつけることは難しい。
なにかを受け入れ、なにかを捨てる。
その選択が他の誰かにとっての“正しい”では無くて、出来れば自分の信念で選びたいんだけどね、迷うよね。
孔子曰く『四十にして惑わず』とのことだけれど、きっと40歳になってもわたしは惑い続ける予感しかしない。
その選択肢すら無くしてしまったエイリシュのお姉さんには、ただただ心が痛む。

どことなく古き良き日本映画のような味わい深さがある。
とにかくエイリシュの心に特化しており、心情の揺らぎを恥ずかしげもなく、とても素直に表現した良作だった。
あと食卓での不謹慎な神ジョークが好きだったな。
さて、うちの会社も4月で人事異動。
どうなることやら。