グラッデン

ゴースト・イン・ザ・シェルのグラッデンのレビュー・感想・評価

3.6
今回の映画を鑑賞するにあたり、下記の3作品の存在を意識しました。

・士郎正宗の漫画『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』
・押井守監督によるアニメ映画『GHOST IN THE SHELL』
・神山健二監督が手がけた『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』

どちらかと言えば、原作を後追いすることが多いタイプですが、押井監督の作品を通じて本作の存在を知り、原作となる漫画作品に触れ、OVAシリーズのスタート時期が非常にアニメを見ていた時期とも重なっておりましたので、本作に関しては相当量の知識がある状態で鑑賞に臨みました。

鑑賞を終えて感じたことは、非常に「押井」であり「惜しい」作品であったという感覚でした(真面目に)。
上記の3作品の中では、押井監督の劇場版作品を一番強く意識する描写が随所にありました(当方のような押井ファンにしか理解できないような細かくて伝わりづらい小ネタも多々ありました汗)。

スカヨハが演じる少佐やバトーのキャラ造形であったり、香港を想起させるようなアジア色の強い無国籍で雑多な都市の雰囲気であったり、アクション等の原作準拠の描写における再現度は非常に良かったと思います。

それだけに、シナリオやディティールといった基礎工事の詰めの甘さが勿体なかったかと思いました。特に、シナリオの部分に関しては、原作はもちろん、押井監督が続編『イノセンス』でも突き詰められていた、義体に宿される魂=ゴーストに係るテーマの掘り下げを少佐個人の出来事にフォーカスしたアプローチに展開したのはイマイチであったかと。
作中では、生身の人間と義体の違いを言及する象徴的な描写もあっただけに、作品のメインテーマともいえるゴーストの取扱いに関しては、もう少し上手く昇華してほしかったという気持ちです。
また、至る所に登場する日本語表記に関しては、我々が日本人が見てしまうと雑に見えてしまいますので、都市が醸し出すムード自体は良かっただけに、悪い意味で浮いてしまったのは残念でした。

繰り返しになりますが、実写で高いレベルで表現度ができていることは大変すばらしいことだと思います。また、本作で取り扱われてきたものが原作から四半世紀が経過して、徐々に日常の世界に近づいてきていることに時代の変化を感じました。
それだけにインパクトを引き出すのは難しい作品ではあったと思いますが、良い刺激を与えてくれたこと、新しい攻殻に出会えたことは嬉しく思いました。