そりっどあいぼりー

人生はローリングストーンのそりっどあいぼりーのレビュー・感想・評価

人生はローリングストーン(2015年製作の映画)
5.0
まさかこんな映画が、DVDスルーになっているとはにわかに信じがたい。確かに客層を選ぶ映画であるし、下手をすると青年がただ喋っている映画に捉えられるかもしれない。それでもこの映画は私にとって鑑賞後も自分の思考を離さない、噛み締めるほどにその味わいや渋みが増すような作品だった。

ある種の純文学のような風格を持つ若手記者と売れ子作家の軽快なやりとりがまず素晴らしい。作家から出る言葉のセンスはまさに作家たる説得力があり、彼らの言葉の示唆を読み取るだけでも十分に知的興奮を味わえるが、本作の最大の魅力はそんな中でも二人が無言になったり、ただ歩いている瞬間に感じるお互いの同時性や親しみ、もしくは憎しみが共有されたような1シーンにある。そのシーンの切り取りが、全く素晴らしい。なんてことのない朝の散歩でも、永遠に続いてほしいような...

うつ病を患い自殺願望と常に戦う作家とのやりとり。「燃えさかる高層ビルから人が飛び降りることがある。強くないからじゃない、そこにあるほうが悲惨だからだ。どれほどの悲惨さだと思う? 死のダイブが逃げ道に思えるなんて。」と表現したうつ病の苦しみを、作家の夢を追う若手記者がどのように捉えるのか。記者と作家の立場をとっていた二人が、お互いの思考をぶつけ合い、それが感情のぶつかり合いになって、本音となる。その本音の共有によって生まれる心のよりどころとか安心感のようなもの...そういうのを味わうことってないか?

七転八倒しながら考えたが、言葉に表現するのが本当に難しい。とにかく一言では語り切れないような、人生において特別だったが、前後の人生とは独立したような奇跡的な一瞬がこの映画には閉じ込められている。