むらみさ

人生はローリングストーンのむらみさのレビュー・感想・評価

人生はローリングストーン(2015年製作の映画)
4.3
本を読む
著者の孤独にじぶんの孤独を重ねる。

読書をする度にじぶんの感情にも言葉を与えてくれた作家たちが支えになってきたし、そういう才能が欲しいと思ってきた時期もあった。

作家はさまざまな感情に言葉を与えられる。言葉を与えられた感情や情景はちゃんと居場所を与えられた記憶に変わって、収まるべき場所に収まっていく。
イチ読者の私はそれがとても羨ましくて、じぶんのなかに湧いたその感情たちに言葉を与えたくてこの様なレビューを書いているところもある。

ところがどうだろう、
本作のなかの作家デヴィッド・フォスター・ウォレスはその才能に恵まれた成功者だという前に、アメリカの雪深い郊外に身をおいている兄みたいなそんな存在で、私は彼を好きにならずにはいられなかった。
孤独に言葉を与えられる才能はもちろんあるのだろうが、その才能の産物に群がるイメージから距離を置き常に身の丈を意識せざるを得ない作られた‘孤独’が切なくて、
生前の姿としての5日間がキラキラしていて涙が止まらなくなってしまった。


インタビューの5日間を共に過ごした、
自らも作家を目指していた記者のデヴィッド・リプスキーが当初ウォレスに抱いていた羨望と嫉妬。
ふたりが衝突した後にそれが次第に溶けていきふたりの間の壁がふっとなくなるところがとても良い。
その壁が消え、自著をウォレスに渡した時のやり取り。

「いい表紙だ」
「イギリス版にもおなじ絵を使ってもらった」

「自分に決定権が(あるのか)?」

ふたりの才能の境目、自費出版とメジャー(イメージ戦略のための自由のなさ)の描き分けが痛すぎて、それも含めてのふたりの関係性が尊いなぁ
と。

最期のダンスシーン、
生きるために本を書くウォレスと言葉を紡ぐことで追い詰められていく彼を想像させる、とてもいい場面でした。

【個人的補足】
alanis morissetteのくだりがものすごい共感。
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