gyaro311

アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発のgyaro311のレビュー・感想・評価

3.7
試写会で鑑賞。
新年早々、非常に痛い所を突かれた映画。
商業的に大きく成功することは難しいと思うが、
そこに価値があると思う。
感じたのは「和して同ぜず」は本当に難しい、
ということ。
ミルグラム実験が明らかにしたのは、
多数派は自己の判断より服従を選択するという、
人間社会の真実。
服従を選んだ65%の人たちは、恐らく普段は、
「感じがよく、付き合いやすい」人たちだ。
平和な社会、地域社会の善良な市民であり、
同調能力の高い人たちのはずだ。

会話に、いちいち疑問を挟めばウザがられる。
まず信じなければ、心を開いてもらえない。
だから、なんとなく信じて、
言われた通りにしてあげる。
空気を読むというやつだ。
いざ、行為の責任が誰にあるか問われたら、
答えは「わからない」となるだろう。
善良な市民が、なんとなく、
みんなのためにした行為だから。
ミルグラムは、そのような心理を
「代理人心理」と結論付けたようだが、
実社会の成り立ちを考えるとより難しい。
全てを判断できない中で、
社会に対するスタンスとして、
同調することを基本とするか、否か、という
問題だからだ。
基本的には同調した方が、
個人が負うリスクは少ないはずであり、
それは人間のDNAに刻み込まれた「性」だ。
赤ちゃんが、じっと人の目を見つめ、
よく笑うのと同じことだ。

だから、世の中は、ミルグラムの実験に対して
激しいアレルギー反応を引き起こした。
人間社会が持つ「見たくない側面」を
「見える化」した実験だったのだと思う。
「見たくない側面」を扱った映画だから、
商業的には恐らく成功しないと思うし、
「見たくない側面」に迫った映画だから、
商業的に成功しなくても価値があると思う。

同調能力、ひいては服従することが、
大半の人間の悲しい性だとすれば、
希望は、悪い命令が少ない、
平和で安心な世の中が築くことにあるが、
それを築けるのは誰なのか?

選挙でリーダーを選ぶアメリカでは、
今年、トランプ大統領が登場する。
政治エリートによる独裁を貫く中国では、
習近平氏が共産党大会に向けて
権力のさらなる強化を図る。
安倍総理は三選を目指しそうだが…
そういう「リーダー」達がつくるのか?
同調能力の権化たるマスコミが、
危機に際しては健全な批判精神を発揮し、
良い世の中の維持に貢献するのか?
それとも宗教の出番?SNSのさらなる発展?
答えは見えないけど、
課題を自覚した上で、
確固たる信念を持てるはずだという
希望を持ち続けたいと思った。
gyaro311

gyaro311