ちろる

ソング・オブ・ザ・シー 海のうたのちろるのレビュー・感想・評価

3.6
アイルランドに語り継がれている、セルキー伝説を元に描かれた海辺のとある家族の物語。

どうしても、女の子のキャラクターが可愛すぎるのが逆にネックになって、公開当初は後回しにしていました。しかし実際観て観ると、背景の絵がまるで色鉛筆で描かれた、ファンタジー絵画のようにとても綺麗で、あの、丸っこい人間たちのポップな顔も観ているうちにだんだんと気にならなくなりました。

ストーリーに深いメッセージ性は(恐らく)無いのですが、北欧の民話やアイルランド文学では度々登場する、セルキーについて認識が薄いと妖精?セルキー?アザラシ?何なの?ってなってしまい、少し分かりにくいかもしれません。

因みに「セルキー」とはアザラシの事を指していて、特別の力を持つセルキーは陸に上がると人間の姿に変え、海に戻るときはアザラシの皮のマントを被る、所謂人魚姫に近い存在としてアイルランドをはじめとした北欧の民話で言い伝えられています。

人間に姿を変えたセルキーは容姿が非常に美しく、時に人を誘惑して骨抜きにしたり、逆にアザラシのマントを隠されてしまい、海に帰れなくなってしまうなどの様々な伝説があり、この映画もそんな民話が基盤になっている作品です。

個人的にセルキー伝説に興味があり、大学でアイルランド文学も専攻していましたが、映像作品になるとなかなか少なく、セルキー伝説を元にしたアニメーションは今回初めて観ました。

セルキー伝説の映画では「フィオナの海」が好きなので、兄弟だし、少し近いものを想像していましたが、こちらはまた違ったものでした。
あちらは少し哀切さを残した、静かな作品なのに比べると、こちらはもう少しエンターテイメント性を持たせていて、さすがアニメーションといった出来栄え。予想とは違うけど、冒険あり、家族愛ありで、もしも子どもと観るならこっちの方がオススメです。

総合的にストーリーがすごく良くできてた!というわけではないのですが、映像が本当に美しい。
仄暗い海の中のクジラの周りで泳ぐ少女とアザラシの絵も、時折主人公の兄弟を導くように現れる光の表現も、明と暗のコントラストが見事でその絵の中に入っていきたい!と思わせる不思議な魅力があります。

そして何より物語の始まりから流れるケルト語?の海の歌が本当に心地よく、もし夜の海でこの歌を聴けたなら、きっと日本人の私でもセルキーの存在を信じてしまうんだろうなと魔法にかかったような気持ちになりました。

1つ気になるとしたら、度々ジブリを思わせるようなモチーフや風景が出てきて、映画の中に入っててもそっちに意識が引っ張られてしまう。
監督さんがジブリを参考にしているかどうかはわからないのですが、たまに崖の上のポニョ、となりのトトロ、ハウルの動く城、千と千尋の神隠しなどを思い出してしまい、その度に呼び起こされて少し集中できなかった。
もし、これから観る人がいれば、なんならいっそのことジブリっぽい箇所を探しながら楽しむ方法もあるかもしれません。
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