なべ

みかんの丘のなべのレビュー・感想・評価

みかんの丘(2013年製作の映画)
3.8
 冷戦終結からソ連崩壊の流れの中で起きた小国家の独立運動のひとつにグルジア(今はジョージアと呼んでる)があった。ペレストロイカ以降、バルト海や黒海周辺でややこしい紛争が起こっていたのは日本でも報じられていたけど、いまひとつ切実に思えない馴染みの薄い国々だった。たまたまグルジアンポリフォニーが好きで、合唱曲をよく聴いていたのでかろうじて記憶に残っていたものの、グルジアがアブハジア(この国名も覚えてなかった。てかドラマに出てくる架空の国名やん!)を自分たちの領土としようとしてたことなんて全然知らなかったし、当のアブハズ人がこれに反対して民族紛争に突入したことも知らなかった。ましてやエストニア人のみかん農園(噂によると日本の温州みかんの苗木らしい)にグルジアとチェチェンのゲリラという組み合わせにはまったく理解が及ばなくて、一旦止めて背景を調べたほど。そのあたりのことはここにいちいち記さないけど、この映画をより楽しむには簡単に予習して臨んだ方がいいと思う。

 さてこの作品、戦争映画としては設定がとてもシンプル。戦争の不毛さ、憎しみと殺意の根拠の曖昧さなど、描き方が王道中の王道。フルメタルジャケットや地獄の黙示録のような難解な作品を経験済みの感性には若干の物足りなさも感じられるが、むしろその昭和な正攻法さが新鮮といえば新鮮。素直な思いがズバッと斬り込んでくるカンジなのだ。
 みかん農園で送る日常によって、敵対する負傷兵の殺してなんぼな戦争脳が改めて人間性を獲得していく過程が丁寧。食べることって大事なんだな。
 もちろんみかん農園は戦況如何で一瞬で戦場と化すわけで、たとえ戦闘の規模は小さくても、唐突に殺意が訪れる。容赦なし。
 それだけに戦争とは一線を画すイーヴォの厳しい覚悟と揺るぎない生き様が尊い。そしてこの上なく悲しい。

 そうそう、エンディングの曲が始まったとき、ルー・リードの「ワイルドサイドを歩け」のグルジア版だと思ったのね。なんてセンスなんだろう!と感激したけど、ボーカルになると全然違くて、なんかクソダサい歌だった。歌詞の内容もなんかよくわからん感じで、こんなんなら字幕をつけてくれるなと。最後の最後で変な曲で締め括られて、チェッとなったことを書き加えておく。
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