旅するランナー

みかんの丘の旅するランナーのレビュー・感想・評価

みかんの丘(2013年製作の映画)
4.7
【死に乾杯】

ジョージアと独立を目指すアブハジアとの戦争、それを見つめるのはこの紛争の部外者であるエストニア移民の老人イヴォ。
戦闘で負傷したジョージア人ニカと、アブハジア側の傭兵であるチェチェン人アハメド。
彼らを介抱するエストニア人の老人イヴォの問いかけ·語りかけが、とても重く、胸に響きます。
いつまでもいがみ合う二人に憤り「死に乾杯」と酒をあおるイヴォの言葉が、後になると深い重みを持ってきます。

87分の短い映画ですけど、濃密に戦争の無意味さを伝え、とても見応えがあります。
誰でも愛する人の元へ帰りたいのに、それを許さない戦争。
やはり「命に乾杯」というのが正しいのだと思います。

<神戸映画サークル7月(第589回)例会/会報に記載されている情報>
・コーカサス山脈は黒海からカスピ海まで東西に走っている。その南は、1991年末のソ連解体後に独立したジョージア共和国、アルメニア共和国、アゼルバイジャン共和国の三国がある。
・アブハジア紛争は、1980年代後半、ジョージアの民族主義者が統合を主張したことに対して、アブハジアが反発し、分離独立の気運が高まったことに始まる。1992年のアブハジア独立宣言後、大規模な軍事衝突が起こる。
・19世紀後半の帝政ロシア時代に、多くのエストニア人がアブハジアに移住し、開墾、集落を築いた。
・みかんはアブハジアの名産品で、ソ連邦時代に、日本人の学者が中心になって、西ジョージアの黒海沿岸の地方に多くの苗木を植え、拡がっていったともいわれている。
・ザザ·ウルシャゼ監督(1965-2019)は、2013年からジョージア映画アカデミーの代表を務めていた。父親はサッカーソヴィエト代表のゴールキーパー、ラズマ·ウルシャゼである。