大好きなものと時間を共有する豊かさ。
絵を描く人のみならず、個々が“大切にしているもの”と一緒にいる時間は、本当にかけがえのないものだと思う。
秋から冬にかけて、画家のアントニオ・ロペス氏が、庭に植えたマルメロの木を描く。それだけの映画。
木枠を作り、キャンバスを張り、イーゼルを置いて対象と向き合う。
「果実が金色に輝いて美しかった。あの陽光を描かなきゃ。...ごらん、なんて美しい果実だろう。」
出来上がった絵を夢想しながら、大好きな“マルメロの木”と対話する時間こそが、ロペス氏の大切なものなんだろうなぁ...。なんとも素敵。
降りそそぐ光を受け黄金に輝くマルメロ、青々と繁る葉の揺らぎ、季節の移ろい。小さな庭に息づく自然が、とっても美しく感じられた。
秋から冬にかけての、あの“空気が冷たくなったな”っていう感覚。それが画面から感じられるほど、リアリティ溢れる映像。
早朝の小鳥の囀り、雨音、訪れる人々との語らい...。
描かれているのはごくありふれたものなのに、そのどれもが瑞々しく、喜びに満ち、愛おしい。
人であれなんであれ、愛するものがある人は幸福だと思う。夢中になれる何かがある、その幸せを忘れずにいたい。