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息を殺しての海のレビュー・感想・評価

息を殺して(2014年製作の映画)
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むかしから、とるにたらない願かけをするくせがある。たとえば、夜布団の中に入って、20秒まばたきを我慢できたら明日はいい日になる。たとえば、眠くてたまらないけど今描くのをやめたら、この絵は永遠に完成しない。たとえば、あなたが朝、おはようと言ってくれるとき、わたしの名前を呼んだならまだこのままでいてもいい。ときには、大事なひとの不幸や、自分の遠い未来のことを、立ててみることもあった。一度きり試して、一度きりそうなったことなら、結果は五分五分。何度か試して、何度でもそうなったことなら、そのとおりになるような気がする。たぶん思い込み。でもその思い込みが、もともとあるものを受け容れているのか、もともとわからなかったものを勝手に決めつけているのかは、わからない。帰りたくないとおもうときって、大抵の場合、そこにいたいよりも、あそこにいきたくない、って気持ち。それでもときどきは、ここにいたい、って思っているんだよ。気づかれたくても、言う方法がわからない。どんな意味のない会話でも、ぜんぶおぼえてしまってる。あなたはわたしを、さみしがりと言って笑うだろう。そう簡単に終わりにはできなくて、思ってるよりずっと時間はわたしのなかから連れ去られていくから、このまま、このまま死んでいくかもしれない。わたしだって。夜が、そっと照らしていた暗やみは、朝がくれば、影に抱かれ、息を殺して待っている。つぎに夜がめぐってくるときを。光りのなかで踊る暗さ。闇のなかで踊る明るさ。わたしを満たすかなしみは、ときどきそこから、あとかたもなく消えてなくなる。そういうとき、あなたがきているのだと思う。そこにいないものと生きていることをそこにいて知る。
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