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息を殺してのshxtpieのレビュー・感想・評価

息を殺して(2014年製作の映画)
4.0
安倍政権下のえも言われぬ息苦しさ、漠然とした不安だけを感じる 2020 年のオリンピック。その 2 つからのソフトな抑圧のもとに生きる若者たちを、群像劇としてうまく活写している。

誰がどう見ても長期安定政権に突入した(なにせ政権を脅かすような勢力が皆無。呆れ果てるほどに)安倍政権下のこの、えも言われぬ生きづらさ。その息苦しい空気は、 2 つの具体的なファクターが醸成している。まず第 1 に、大胆な規制緩和とそれでも脱却の兆しすら見えないひどいデフレ、という最悪の組み合わせで末端へのしわ寄せが目も当てられぬほどになった「貧しい国」ニッポンを見事に作り出したアベノミクス。第 2 に、 9 条を中心とした憲法改正の議論。

そのどちらもものすごく具体的なファクターでありながら、内実が伴っていない、空洞で空虚であるがゆえのこの具体性を欠いた息苦しさ。将来に大きな禍根を残すであろうその「ぬるい毒」に侵された国で「ソフトに死んでいる」のは貧しい若者たちだ。奇妙な空気の中で、まるで息を殺しているかのようにひっそりと、だが確実に生きている彼ら(それはぼくたちなのかもしれない)は、日々をゆるく、倦怠感を伴って過ごしている。その気怠さを払うために若者たちはサバゲーに興ずることでリアリティを得ようとする。

そこに暴力的に接続されるのがタルコフスキー『ストーカー』の犬、そしてこの『息を殺して』という映画の開始時点で既に死んでいた死者たち。犬が呼び水となったのか、はたまた犬は彼らの使いなのか、大晦日という特別な時間に死者たちは突然やって来る。ピンと張り詰めた緊張感を持った青春映画であり、ラブストーリーでもあるこの映画は、そこで突然ホラーと SF の色合いを帯びはじめる。この不思議な感触は他の映画で得られるものではない。

監督の演出は冴えまくっている。カメラワーク、照明、音響と録音はとにかくエッジーだ。

後半、映画が保ってきた空気感をぶち壊すようなセンチメンタルなダンスのシーン、あれさえなければ……、とは思う。そこでかかる曲も実にダサい。しかしあの躍動的でどこか気恥ずかしい暴走もまたこの映画の魅力なのかもしれない。
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