サマセット7

スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明けのサマセット7のレビュー・感想・評価

3.4
スターウォーズシリーズ正伝の9番目のエピソード。
フォースの覚醒、最後のジェダイに続く、続三部作の完結作。
監督はエピソード7のJ.J.エイブラムス(ミッションインポッシブル3 、スタートレックのリブートシリーズなど)が再登板。
主演は、続三部作通じて、デイジー・リドリー。

遠い昔、はるか彼方の銀河系で…。
ついに歴史の闇に蠢く邪悪が姿を現す!
フォースの申し子たるレイとカイロ・レンの2人は、冒険の果て、互いに自らの運命と対峙する…!

創造主ルーカスの手を離れ、ディズニー体制で再始動した続三部作。
第一弾のエピソード7は、J.J.エイブラムス監督のバランス調整が光り、ファンの心を掴み、映画史上稀な大ヒットとなった。
しかし、エピソード8を任されたライアン・ジョンソン監督は、従来の世界観を揺るがす独自の物語で勝負を賭け、一定の賛同は得たものの、一部のファンからの激烈な反発を招いた。

これら前2作で、未だに明かされていなかった大きな謎は二つ。
主人公レイの出生と、カイロ・レンの背後に潜むフォースの暗黒面を蘇らさんとする邪悪の正体であった。
エピソード8に賛同するファンも、ディズニー体制に不信を抱いたファンも、これらの謎を解くため、今作を鑑賞せざるを得なかった。

他方で、今作は製作的にややごたついている。
当初予定されていた、ジュラシックワールドシリーズのコリン・トレボロウが監督を降板。
その結果、エピソード7の監督J.J.エイブラムスが再登板に至り、三部作のクローズという難題を任されることになった。

今作は世界的に大ヒットしたものの、興行収入で前2作に及ばなかった。
また、批評家の評価はシリーズ中でも低く、一部に酷評を招いた。
観客の一般的評価は、平均するとまずまずといったところか。

私の感想は、エイブラムスさん、お疲れ様!大変だったね!というものである。

今作の見どころは、前2作の残された謎を解明し、続三部作を完結させたことそのものにある。
レイとカイロ・レンという魅力的なキャラクターたちが様々な冒険やドラマの果て、一つの結末を迎えたことはやはり感慨深い。
物語としては、クライマックスの迫力ある展開はなかなか魅力的である。
また、続三部作通じてであるが、最新映像技術によるド迫力のスペースオペラ世界描写はやはり素晴らしいものがある。

一方、今作を批判しだすとキリがない。
J.J.エイブラムス監督の手腕や脚本の問題というよりも、三部作の構成に帰する問題が多いように思える。
前2作で張るべきだった伏線を張っておらず、その結果、後出しジャンケン的な展開のオンパレードとなっていること。
前作に対する反発を意識するあまりか、物語上不要な、過去シリーズへの過剰な配慮が見られること。
真の敵の出現、レイの出生の判明と葛藤、仲間たちとの絆の形成、過去シリーズキャラクターへの目配せなど、クライマックスに至るまでに描写を要する案件が多すぎ、飽和した結果、ストーリー自体が、ベルトコンベアのようにあくせくしたものになってしまったこと。

それでも、エピソード8からよくここまで持ち直した、という評価も可能だろう。
結果、上に述べた感想に至る。

今作のテーマは、先人の築き上げた歴史の上に私たちは生きている!先人に感謝し、新たな歴史を築いていこう!というあたりか。
過去のジェダイたちに関する描写や、懐かしの人物の登場、印象的なラストシーンは象徴的である。
ルーカスの創造物を最大限活用して、このシリーズをまだまだ続けていくというディズニー体制のスタンスとも重なるものがある。

さて、続三部作完結により見えて来るものに思いを致すのも一興だろう。
思えば、1977年にオリジナル三部作が開始されたころは、ベトナム戦争後の疲弊ムード。
若きルーカスが、時代のムードを覆さんと、自らの経験をもとに青春冒険ドラマを描いたこと、さらには、当代の新たな精神的支柱となり得る「神話」を打ち立てんとしたことは想像に難くない。

一方、1999年に最新のCGによるどこか空虚な陽気さと共に再始動したプリクエル三部作は、作を追うごとに陰湿ともいえる暗黒に飲まれていく。
これは、2001年9月11日に世界を激震させた同時多発テロの脅威から始まるゼロ年代の暗鬱とした世情と無関係ではあるまい。
このように、スターウォーズシリーズもまた人の創作物である以上、時代の空気を映さざるを得ない。

そして10年代。
続三部作はどう時代を反映したと評価すべきだろうか?
続三部作の、善と悪といった単純な対立軸の見え辛いキャラクター配置。
謎と過去シリーズへの目配せを散りばめさえすれば、客は入るという達観。
「もはや「神話」である必要はない。継続性こそが重要なのだ。」と言わんばかりの、一貫したメッセージ性や軸を欠いた、過去シリーズを継ぎ接ぎしたような物語の流れや三部作の変則的な脚本リレー方式。
これらは、時代の反映と言えないだろうか。

例えばトランプ体制が象徴する、極まった経済功利主義。
あるいは、大戦下の独裁主義や冷戦下の共産主義といった、確固たる「敵」の存在を失い、巨大化した資本主義の歯車が自動的にゴリゴリと回り続け、個人を擦り潰し、やがて格差やテロを醸成する煮詰まった社会構造。
もちろん、レイ、フィン、ローズなどの体現する人種や性別の多様性や、時間や空間を超えて即座に他者と交信できてしまう即時性もまた、良い意味で10年代的だ。
並べてみると、たしかに続三部作はコロナ禍以前の10年代を反映していたように見えて来る。

まとめると、各時代を代表する伝説的シリーズの続編三部作の完結という難題に挑んだ労作。
しばらくはスターウォーズはいいかな、という気分だが、2022年にはライアン・ジョンソン中心に新たな三部作が始まるらしい。
ドラマのマンダロリアンは評判も良いとか。
なんだかんだで、また観てしまうんだろうなあ。
資本主義の歯車に飲まれる者がまたひとり…。