木津毅TsuyoshiKizu

スティーブ・ジョブズの木津毅TsuyoshiKizuのネタバレレビュー・内容・結末

スティーブ・ジョブズ(2015年製作の映画)
2.9

このレビューはネタバレを含みます

1)
 ダニー・ボイルの映画における経済的な救済というのは何を意味してるのだろう? 本作における3幕め、主役がiMacに移るときわたしたちはそれがもう、本当にバカ売れしたことを思い出すのだが、つまりその歴史的事実まで含めてのこの物語である。『スラムドッグ$ミリオネア』で描かれた大々的な救済は間違いなく貨幣の力によるものであって、であるとすれば、実在した人物としてのスティーヴ・ジョブズ、ひいてはアップル商品の経済的な成功が予め織り込まれている上でのこの映画の安心感、というのは首肯しかねる部分ではある。

2)
 とはいえこれは脚本家アーロン・ソーキンの映画であって、『ソーシャル・ネットワーク』からの既視感は拭えないものの、ジョブズという人間を知的で毒のある会話劇で浮き彫りにする発想は巧い。ジョブズについて知っていなければ追っていくのがつらいという意見もあり、まあたしかにそうなんだけど、その説明をバッサリ落としているのはいい判断だと思う。スティーヴ・ウォズニアックやジョン・スカリーとの確執、父娘間の葛藤といったドラマがシアトリカルに凝縮されており、そのことがドライヴ感を生んでいるからである。ただやっぱり観客へのサービスを抑えられなかった部分もあり、iPodを仄めかすセリフとかほんと要らなかったなーと。

3)
 俳優陣は堅い。マイケル・ファスベンダーのパフォーマンスはもちろん、ケイト・ウィンスレット、ジェフ・ダニエルズという舞台劇に合う俳優陣もさることながら、ウォズニアックの人がいい厚かましさを表現したセス・ローゲンの憎めなさが見事だった。

4)
 幕ごとにガラリとムードを変えていく音楽はセンスがいい。が、その分使用楽曲の存在感の過剰さが気になって、「あーここでディラン来るのかなー」というところで本当に来てしまう辺りいただけなかった。『ソーシャル・ネットワーク』で抜群のタイミングで流れる“ベイビー・ユア・リッチマン”のクールさを思い返すとなおさら。

 で、これら1)~4)の要素がどうも有機的に連動していない。映画においては微分されたマイナスの要素もそれらが折り重なることで全体としてプラスに転じることもあるわけだが、その瞬間を見出すのは難しかった。