シュローダー

スティーブ・ジョブズのシュローダーのレビュー・感想・評価

スティーブ・ジョブズ(2015年製作の映画)
4.8
この映画の122分ほど濃密で無駄のない122分は無い。久々に完璧な程面白い映画に出会った。Macintosh NeXTcube iMacの発表会の直前40分程度(肝心の発表会本番は一切見せない)と、ランダムに入り乱れる回想シーンだけで、スティーブジョブズという男が如何に"人間"としてクズでワガママか。"父"としての責任から逃げ続けたのか。というパブリックイメージとは異なるジョブズの側面を見事に描き出すのは流石としか言えない。メインの登場人物も必要最低限に抑え、ジョブズとの関係性の変化を丁寧に描いている。ビジネスパートナーのジョアンナ 共同創業者のウォズニアック ペプシからジョブズ自ら引き抜いたCEO スカリー そして、ジョブズが頑なに認知しない娘 リサとその母クリスアン これらの人物とジョブズが時代を経る度にどう向き合っていくのか。まさしくアーロンソーキン節が炸裂した会話の肉弾戦と言わんばかりのセリフの応酬が、ダニーボイルのテンポの速い編集のテンポ感と見事にシンクロし、絶大な映画的面白さを生み出している。発表会の会場を動き回るカメラワークも僕のツボにハマってくれる。どのパートも素晴らしいが、特に好きなのはやはりiMac発表パートのラスト 駐車場で娘のリサと会話するシーンだ。「ポケットに1000曲入れてやる」というセリフに鳥肌が立った。ここでiPodか! と大いに膝を打ち、大歓声を浴びながら、リサを見つめるジョブズの姿は、今まで天才と呼ばれながらも、クズな側面ばかりを見せられてきた観客に対して、大きな感動を与えてくれる。こういう不器用な人の人生を見せられて、胸が震えるという体験こそ、映画という芸術が持つパワーだと改めて感じられた。役者陣は見た目のコスプレよりも、精神の面でのコスプレを目指した演技合戦。特に3つの時代のジョブズを演じ切ったマイケルファスベンダーの凄まじさは賞賛に値する。ジョブズやその周りの人物や出来事に対するある程度の予備知識無しでは少し難解かもしれないが、全ての映画的要素が有機的に絡み合う極上の映画体験が味わえた。人にオススメしたい作品。