“深い森の奥、過去と今を魂が彷徨い続けている”
ガスヴァンサントが送る富士の樹海に死にに来たアメリカ人と日本人の魂の迎合を描く静かなドラマ。
世界的な自殺の名所、富士青木ヶ原で繰り広げられる科学者マシューマコノヒーと典型的日本人サラリーマン渡辺謙の悲哀と絶望感たっぷりの演技は、本作のシリアスなテーマに磨きをかけている。
同監督の『永遠の僕たち』を観たあとだからなおさら感じたことかもしれないけれど、日本人の死生観をガスヴァンサントなりに突き詰めたセリフや展開が多くて、自分はそれがかなり好意的に感じた。
魂や霊についての言及が多くスピリチュアルな展開もあるが、マシューの妻役のナオミワッツとのシリアスな夫婦ドラマに嫌な説得力もあり、脚本全体に程良い厚みを感じた。
爽快じゃないけど、なるほど〜、と感心してしまうセリフや問い掛けがかなりあった。
特に富士の樹海での自殺について
“死を覚悟して来ているものと、生きる事に迷ってここに来ているものの二通りがいる”
という言及が素晴らしかった。このくだりを観るだけでも、本作を鑑賞する価値は十二分にあると思う。
ガスヴァンサントの生と死のリアル哲学とひとつまみのファンタジーが良い塩梅にブレンドされた秀作。