ちろる

エンドレス・ポエトリーのちろるのレビュー・感想・評価

エンドレス・ポエトリー(2016年製作の映画)
4.1
「リアリティのダンス」から約4年、88歳アレハンドロ ホドロフスキーの過去の行脚の旅はまだまだ終わらない。
抑圧され続けた少年時代からようやく決別して身も心も自由になった青年アレハンドロが見せる世界はもう自由すぎて、誰に対しての躊躇もなく忖度も全くない。
奇想天外な芸術家仲間に真正面から飛び込んで、彼を取り巻く世界はまるでサーカスさながら。
「詩とは行為だ」そう語り、肉弾のミューズや仮面の人々、小人の男女らとの出会いながら愛する事も、絶望も、裏切りも、許し合う事も全てを通過して、生の赤と死神の黒が蠢くカーニバルで蝶になる彼は、次々と詩を紡ぎ出す。
ミューズの赤髪とそれを燃やす炎の赤も、女の流す赤い血や燃え残る母のコルセットを飛ばす赤い風船も、カーニバルの赤も、鮮烈な赤色が印象的な本作は、私たちの体の中で今もどくどく流れる血のようで、まるで作品全体で私たちに「生きるんだ!」と叫んでいるようだった。

私たちは、思い出したくないような恥ずかしい事も、他人にした残酷な事も、トラウマになるような哀しい思い出も、そのどれもこれも無にはできないから、すべて背負って生きていかなければいけない。
「私たちは死して生まれる。」そう語り青年の自分を見つめる88歳のホドロフスキー監督は、この作品を通して私たちの恥も、罪も、後悔も、絶望もみっともない「生」の全てをひっくるめて肯定してくれているようにも見える。

映画監督ホドロフスキーを形造るのに不可欠だった詩人を目指したこの青年期を、この度肝を抜かす映像詩と共に振り返る一方で、決別した父への後悔の念を自らの芸術作品で治癒してしまおうとする貪欲さはとんでもないけれど、それとひっくるめてもう誰も彼を止められない。
彼にはまだまだ生きてこの先90歳過ぎてもこの、強烈なマジックレアリズムの世界でこれからも私をとことん惑わしてほしい。
ちろる

ちろる