言うなれば巨匠監督の波瀾万丈な自叙伝だが、泣き笑いできるだけでなく価値観を揺さぶられる、ちょっとすごい映画。
演出は前衛舞台演劇的で、お金もあまりかかっていないように見える。そのためかえってホドロフスキーの暴力的な感性がマイルドになり、万人が見やすい作品に仕上がっている。聖と俗、美と醜が入り混じるグロテスクな世界観は健在だが、その対立が映画を通して詩性に昇華される。というか作品が終わる頃には、この巨匠は様々な登場人物を通して、そんな既成概念の対立すらも分け隔てなく肯定してしまう。何を言っているのか伝わらないと思うので、ぜひ作品をみてもらいたいです。
過去の出来事の描き方も、映画として秀逸。『三丁目の夕日』のようなノスタルジックな演出に頼ることなく、ホドロフスキー自身の記憶が十分魅力的に映像化されている点も好み。