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ヒトラー暗殺、13分の誤算の一人旅のレビュー・感想・評価

ヒトラー暗殺、13分の誤算(2015年製作の映画)
3.0
オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督作。

二次大戦時、ヒトラー暗殺未遂事件を引き起こした家具職人ゲオルク・エルザーが辿る運命を描いた戦争サスペンス。

いわゆる“ヒトラー物“の中の一作だが、『ワルキューレ』のようなエンタメ性全面押しの作風とはまるで異なる。そこはドイツ映画らしく硬派な仕上がりになっているのが特徴で、暗殺計画実行のシーンをスリリング&緊張感たっぷりに描くことを目的にしていない。どちらかと言うと、一人の家具職人・ゲオルクの人間性と過去に焦点を当てた物語になっている。
ゲオルクの過去に、彼が犯行に至る動機が隠されている(としている)のだが、肝心要の犯行の動機の描き方が弱い。年月を経るごとにナチスの紋章が街中を支配していったり、知り合いの女がナチスの反ユダヤ主義の犠牲になるなど恐ろしいシーンが数多くあるが、“こんなことがあったからゲオルクは犯行を決意したんだ!”と充分に納得できる決定的な動機がいまいち描き切れていない。
ナチスの台頭でドイツ帝国全体に蔓延する不気味な時代の空気のようなものは確かに感じられるが、なぜ平凡な一般人のゲオルクだけがヒトラーを妄信するその他一般人とは決定的に考え方が違うのか。その理由がゲオルクの過去のシーンだけでは判然としない。
また、ゲオルクと彼が愛する女・エルザの関係が物語のキーになっているが、二人の間で発展する愛憎劇はヒトラーの政治とは無関係のように思えてしまうし、ヒトラーの存在が二人の関係を引き裂いたとは言い難い(エルザのDV夫を圧政的支配者=ヒトラーと見なすことは可能だが...)。

とまあ、実話を元にした作品だし重みはあるが、何を描きたかったのか伝わりづらい内容だった。それでも、ゲオルクが毅然とした態度で言い放つ「正しいことをした」という言葉が印象的だった。周囲の人々がヒトラーの精神的支配下に組み込まれていく中で、ヒトラーがドイツにもたらす破滅をゲオルクだけが客観的に見抜いていた。見抜いた上でそれを阻止するため自ら行動を起こすにはとてつもない覚悟と信念が必要だ。帝国の末端で生きる一人の人間の決死の行動に目が離せない。
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