暴力と破滅の運び手

ヒトラー暗殺、13分の誤算の暴力と破滅の運び手のレビュー・感想・評価

ヒトラー暗殺、13分の誤算(2015年製作の映画)
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 1939年ミュンヘン、「ビュルガーブロイケラー」でのナチス指導部の演説に合わせて時限爆弾を仕掛けたゲオルク・バルザーはスイスへの不法脱出を図って逮捕され、獄中でヒトラー暗殺が失敗したことを聞くと証言を拒否し拷問に掛けられる。その間ゲオルクの脳裏には1929年からの光景が蘇る。1929年にスイスの湖畔の町コンスタンツェから故郷のケーニヒスブローンに戻ると父親はアル中になって家業の家具屋は立ち行かなくなっており、その間にもナチスがどんどん村を表層的に支配していく。幼馴染は共産党員として村のナチ党員と酒場で喧嘩をしたりするのだが、やがてはナチが自転車で共産党員狩りをするようになり、ユダヤ人の男と寝ている女を役場の前で看板ぶら下げて晒し上げにし、子供は皆"ユーゲント"に入り、収穫祭では薄っぺらい未来絵図を描きながらプロパガンダ映画上映会をするようになる。ゲオルクはその間に顔がいいので現地の地主の妻エルザといい感じになって妊娠させるのだが、彼はズブズブの共産党員ではなく単なるプロテスタントだったので共産党員からもナチからも男らしくないただのミュージシャンという扱いを受けており、そういう鬱屈が恐らく後押しをして彼は爆破計画を立ててひとりで実行するのである。エピローグでは1945年のダッハウに舞台が移り、ゲオルクの尋問を担当したネーベがシュタウフェンベルク大佐の暗殺計画に手を貸した咎で絞首され、ゲオルクも秘密裏に処刑される。

 ナチの思想が斬新な村八分の口実としてしか伝わらなかったクソ田舎で『ウェルテル』あたりから連綿と続くドイツのお家芸であるところのよろめき人妻ものをやるパートが7割くらいを占めるのだが、そういうものだと思えばかなり見れる。残り3割は、「なんかでかいことやらなきゃ」くらいの気持ちで出てきた一人の田舎者にものすごく大雑把な方法で暗殺されかけたことを信じられずナチが陰謀の存在を数年以上むなしくも疑い続ける、という話。
 実に手際よく大真面目に作られた映画だ。あんなクソ田舎で親衛隊服着て自転車で共産党員狩りをする馬鹿らしさったらないはずなんだけど、全くギャグに見えない。拷問や死刑のシーンの呆れるほどの用意の良さもそう。
 個々のシーンにおける色調や照明がどのシーンでもちょっと強めな質感なのが印象に残った(湖水浴とか)。切り返しを細かく刻んで話を手際よく捌いているが、長回しを使うシーンが覚えているだけで二つあり、それは廊下で読書をするタイピストが拷問の声に心を動かされるシーンと、ネーベが絞首されるシーンである。自白剤のドラッグ表現はちょっと不得手そうな感じだったけど、そういう所を含めて好ましい映画だった。