夏来

黄金のアデーレ 名画の帰還の夏来のレビュー・感想・評価

4.1
ユダヤ人資産家の多くはナチスの迫害を逃れて、欧州各国や米国に亡命しました。
ナチスは、その政権下において、富裕層の多かったユダヤ人から金品を押収し、軍部増強の財源としました。

教科書ではたった数行の事実の裏にあったであろういくつものドラマ。このクリムトの稀代の名画「黄金のアデーレ」をめぐる物語も、実話であり、心に迫るドラマでした。
アデーレのモデルとなった叔母の死後、ナチスの台頭により米国への亡命を余儀なくされたマリア。彼女は数十年の時を経て、愛する叔母の肖像画がオーストリア政府の所有物になっている事実を知ります。彼女は、叔母の思い出とともに、返還を求める訴訟を起こすことを決意しました。しかし、有能で高額な弁護士を雇う余裕はなく、白羽の矢が立ったのは新米弁護士のランディ。彼もまた、祖父母のルーツをオーストリアに持つ、ユダヤ人でした。

クリムトの絵が好きで、ウィーンへ旅行で訪れた際は彼の美術館へも足を運びました。しかし、そもそもこのアデーレがユダヤ人であること、またその事実をナチスが隠蔽し自らのミューズとして仕立て上げていたことを、知りませんでした。
監督はBBCのドキュメンタリーでアデーレをめぐる訴訟について知ったそうですが、わたしもこの映画を鑑賞後、いくつか映像と文献を閲覧しました。そして見えてきたのが、この裁判の複雑さ。いくつもの法律の兼ね合いや、時代を逆行することの難しさを、二時間の映画に、それもエンターテイメントとしてまとめ上げる手腕の高さに、ますますこの映画が魅力あるものに思えました。
しかし、そうはいってもこれは「大人向けの」映画。ナチスの主要政策や時代背景、幹部の名前に、クリムトなど、ユダヤ富裕層が保護した芸術についての基礎知識をある程度抑えておくといいかと思います。

見ようによっては稀代の名画を国同士が取り合っているようにも取れるわけですが(穿った見方をすれば政治的圧力がなかったはずがありませんし)、それにしてもアデーレ役の女優さんは見事にそっくり。
そして、国を持たないことを最大の武器とするユダヤの、底知れぬ強さのひとかけらを見たような気がしました。