MasaichiYaguchi

黄金のアデーレ 名画の帰還のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

4.0
ジョージ・クルーニーが監督、脚本、出演、製作と4役こなした「ミケランジェロ・プロジェクト」が公開中だが、本作も第二次世界大戦中にナチスに略奪された絵画を巡る物語。
「ミケランジェロ・プロジェクト」では、「モニュメンツ・メン」と呼ばれる美術に詳しい人々によって編成されたチームが、銃弾が飛び交う中、略奪された世界的美術品を救出する様が描かれていたが、本作では、ロサンゼルスに住む82歳のマリア・アルトマンが亡くなった姉の遺志を継ぎ、友人の息子で弁護士のランディ・シェーンベルクと共にグスタフ・クリムトが描いた彼女の伯母の肖像画「黄金のアデーレ」を取り戻そうと奮闘する様が描かれる。
美術品の強奪というナチスの罪悪を取り上げたこの二つの実話に基づく作品は、題材は同じでもテーマや作品の趣は違う。
「ミケランジェロ・プロジェクト」が人類の偉大な資産を救った隠れたヒーローたちを描いたエンターテインメント作品だったのに対し、本作は直接の被害者であり、絵の所有権を持つ者でありながら、国を相手取って戦わねばならなかった主人公の人間ドラマを描いている。
そして主人公が絵の返還を求めて戦っていく中で、伯母のアデーレをはじめとした両親等の身内のこと、戦争前までは彼らと明るく平和に暮らしていたオーストリアのこと、軍靴の足音と共にやって来たナチス、その後の何もかも奪われていく辛い日々が回想シーンとして並行して展開していく。
彼女が本当に取り戻したかったものが、この回想シーンと現代との対比の中で徐々に浮かび上がっていく。
戦後70年を迎えた今年、本作をはじめとして邦洋画共、様々な形であの戦争を振り返る作品が公開された。
この作品を観て思うのは、70年を経ても未だあの戦争が終わっていない人々がいることを、平和の中にいる我々は再認識しなければいけないと思う。