OASIS

黄金のアデーレ 名画の帰還のOASISのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

亡くなった姉の残した過払い金の返還を巡りアディーレ法律事務所の新米弁護士と共に法廷で争う事になったアメリカに住む女性マリアの話・・・では無くて、叔母であるアデーレをモデルに画家グスタフ・クリムトが描いた「黄金の女」を巡って、オーストリア政府を相手取り裁判を起こした女性マリアとそのパートナーの弁護士ランディとの実話を基にした映画。
監督は「マリリン 7日間の恋」等のサイモン・カーティス。

ヘレン・ミレンとライアン・レイノルズ共演のヒューマンドラマ。
ナチスに奪われた美術品を奪還するべくたち向かうという題材は「モニュメンツメン(邦題:ミケランジェロ・プロジェクト)」と同様だが、事件の概要をメインに描きそれぞれの美術品に対しては淡白だったあちらと違い、こちらはその品一つ一つにも持ち主がおりドラマが存在しているという事を真摯に、丁寧に描いていた印象。
絵画が辿るおよそ実話とは思えない数奇な運命は、驚きと彩りに満ち溢れていた。

御年82歳を迎えるマリアは、亡姉の遺した遺産の中に幼い頃暮らしていた叔母アデーレをモデルに画家クリムトが描いた作品「黄金のアデーレ」が存在する事を知り、それが保管されているオーストリアの美術館に返還を要求する事に。
年の差の離れた新米弁護士と共に、自身のルーツやヒトラー・ナチ高官等にも深く関係していた絵画の歴史を知り、そして泥沼化して行く裁判へと雪崩れ込むという、あれよあれよと話が転がっていきドラマが生まれていく軽快さはジュディ・デンチ主演の「あなたを抱きしめる日まで」に近いテイスト。
重くなりがちな部分を気持ちを切り替えてサラッと流しつつ前を向いて進んで行く、大人な対応が印象的な脚本だった。

マリアの辛辣だが嫌味を感じさせない芯の強さと気丈さに影響を受け、ランディの自信なさげな風体が成長を遂げて堂々と胸を張れるようになっていき、そしてまた、マリアもランディに影響され過去を振り返りながら向き合おうとするという、親子とまではいかないまでもその手前で留まっているような相棒的関係性が良かった。
ヘレン・ミレンは平常運転(と言ってもその普通がかなり高いレベルなんだけども)で物憂い表情をするだけで泣けてしまうし、ライアン・レイノルズはオラオラ系なイメージが強くて弱気な演技はあまり観たことが無いので新鮮に映った。
演奏を聞きながらさめざめと涙するシーンなんかは抜群の演技でもらい泣きしそうだった。

「若い人は皆直ぐに過去を忘れてしまう」とマリアは言っていた。
確かに、新しいものにばかり飛びついて過去の名作や古典に触れる事を「時間の無駄」と感じてしまう時期もあったりはしたが、丁度三島由紀夫の「命売ります」を読んでみたり、スタローンの「ロッキー」を観返したりしている今、過去の偉大な作品に触れずして現在を語る事に恥ずかしさすら覚えてしまう訳で。
いつしか次から次へと「消費」して行く事ばかり考えていた自分への戒めとして彼女の言葉が深く染み込んだ。

マリアが度々自身の思い出と対峙し、自分との対話を繰り返す場面を観ていると、誰かが言った「忘れてもいい事と忘れちゃ駄目な事がある」という言葉もうそっぱちで全てが必要であると思えてくる。
そもそも「忘れてもいいよ」と言われた所で脳細胞に記憶されてしまったものはどうしようもないし、それならば良かれ悪かれ自分を形作ってくれる「思い出」というものは一生目の前に現れるし、そっぽ向かず付き合って行くしかないなぁと感じる作品だった。