えむえすぷらす

黄金のアデーレ 名画の帰還のえむえすぷらすのレビュー・感想・評価

5.0
クリムトの傑作「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I」。ドイツのオーストリア進駐とその後のユダヤ人迫害※の中で戦後オーストリアの国立美術館が所蔵する所となっていた。
肖像画アデーレを叔母とするアルトマン夫人と新米弁護士のシェーンブルク(あの12音階で知られる作曲家の孫)がオーストリアの手から取り戻すべく立ち上がったという事実に基づく映画化。

TBSラジオ Session-22のミッドナイトセッションでクリムトの絵画について紹介する回が放送されたのですが、肖像画は基本受注生産だそうでこの絵画もアデーレの夫フェルナンドが発注、費用負担して描かれたものです。Wikipediaによると制作期間3年(!)。

本作はマリアがウィーンを脱出するまでの記憶のフラッシュバックと現代の時間軸が並行して語られる。その中でナチスの進駐とユダヤ人迫害の様子が描き込まれ、また二度と戻らないと誓っていたウィーンに戻ったマリアが地元の人から「もう忘れるべきだ」という悪意ある攻撃を受けるシーンでは思わずその人物に目がけてグーパンチが出た。悪意ある差別をやったほうが忘れろだと。記憶こそが二度と繰り返さない為の最良の安全弁なのに何を言うか。映画の中の人の台詞ながら加害者側の居直りとしてよくある現象であり思わず怒りを覚えた。

少し先に公開された「Monuments Men」(邦題「ミケランジェロ・プロジェクト」)は大戦中の美術品奪還と返還の史実を元に脚色した銃以外で戦った人びとの物語でしたが、本作は未だ戦後は終わった訳ではなく個人が立ち上がって諦めずに取り戻そうとした事を記録した物語となっている。日本では偶然相次いでの公開になりましたが対で見られると、Monuments Menたちが取り戻して行こうとした美術品がどのように集められたのかリアルにその状況を見る事が出来る作品でもあると思います。

※参考資料
ゲッツ・アリー「暗闇の中で―マーリオン・ザームエルの短い生涯1931‐1943」一人の少女の生涯を残された公的文書などから追っていてその中でユダヤ人の移送、財産の接収と分与について詳しく語られている。

TBSラジオ Session-22 2015年11月24日(火)千足伸行「天才画家『クリムト』の魅力とは?」Session袋とじ
http://www.tbsradio.jp/ss954/2015/11/20151124session.html

二度とこのような事が起きないように強く願う。