ノラネコの呑んで観るシネマ

黄金のアデーレ 名画の帰還のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

4.1
略奪文化財を巡る裁判劇の部分は、案外あっさり。
コレは同じウィーンの街にルーツを持つ、二人のユダヤ系アメリカ人の記憶の継承の物語。
一人は絵の本来の所有者である老夫人。
彼女は嘗て自分の国に裏切られ、封印した暗黒の過去から必死に逃れてきた。
もう一人は今を生きるのに精一杯で、自分のルーツに全く関心の無い若い弁護士。
歴史の取り持つ縁によって巡り合った二人は、やがて裁判を通じてそれぞれの心に触れ、変わってゆく。
老夫人は封印した記憶に向きあい、弁護士はユダヤ人としてのアイデンティティを見いだす。
とても良い映画だと思うが、どこか普遍性に突き抜けないのは、主人公二人ともウィーンの名家の出という貴族的な“血”の中で葛藤が完結しているからかなあ。
その親世代の苦労は別として。
略奪文化財の問題は日本も色々あるので、興味深い題材だった。